資生堂はどこに向かうのか?「これから先を考えたときに、資生堂はどこに向かうのかというと、健康という側面も入ってくるんですが、やはり美を追求する会社。それもデジタルとを活用しながら、BC(ビューティーコンサルタント)を活用しながら、やれる事業モデルを世界で打ち立てること。トイレタリーはまるで事業モデルが違う。これはもう大量生産型ですしね」
トイレタリーの価格は数百円台のものもあり、広告宣伝費を派手に打って、それを見たお客が店頭に来て、セルフ買いをしていく。化粧品のように、美容部員のカウンセリングも要らない。
両者の事業モデルの違いをじっくり検討して、「資生堂は創業の原点のところを選択していく」
という魚谷氏の決断。
「ただし、僕は売却という言葉がよく使われているのに若干違和感を持っているんです」と魚谷氏。どこに違和感があるのか?
あくまでも、トイレタリーに所属する社員に夢を持たせることが大事。つまり人生設計を自分たちの手で描くようにしてもらうという魚谷氏の思いであり考えなのである。
その〝夢を持てる方向性〟を担保する意味合いで、資生堂はトイレタリー部門が事業会社として新しいスタートを切る際、〝35%の株式〟を持つと決めている。
「35%というのは、非常に重要な意思決定に関わる株主ですよね。それは当社にとっても大きな出資になりますから、運命共同体であると」
新会社に何を望むのか?
「新会社がちゃんと夢を持てる会社になって、トイレタリーの事業会社としてR&D(研究開発)から販売まですべて持つんですよ。資生堂に依存するのではなくてね。資生堂の中では優先順位が低かったのが、この会社ではこれしかないのですから、積極的に投資もしていくということです」
経営権を譲渡したファンドのCVC(英国系)については、「短期的な、よく言われるファンドの悪いイメージの会社とは中身が違うのも確認しているし、全員の雇用の保障と給料、年金すべて、そのまま移管することの保障を全部しています」と語る。
日本的ソリューションでその魚谷氏が日用品の関連社員に呼びかける。
「うちの社員の中には、新会社に移籍、または出向になる人もいると思うんですが、その人たちに先日も言ったのは、あなたたちの自分の人生とキャリアを考えてほしいと。資生堂のこの直接の枠組みでなくなることは非常に寂しいと、悲しいと。そう言う社員が多かった。その気持ちは分かると。だけど、あなたたちの自分の人生なんだよと。わたしは、これをやり遂げて、こういうことによって自分も成長していき、社会に貢献していく。そういうものを、この新しくゼロから作る会社の中でやって欲しいと。日本のトイレタリー業界の大きな発展につながるように貢献してほしい」
トイレタリー事業の譲渡といっても、これでつながりを断つというわけではない。
35%の株主として、「当然、経営に関わりますし、まだ申し上げられませんが、何らかの形でわたしも関わろうと思ってます」と語る。
魚谷氏が続ける。
「だから、資生堂の枠組みから、とにかく売却して外したいんだということではなく、この事業をどうすればいいのだと。その発想から、僕は非常に日本的ソリューションを作ったと思っているんです」
日本的ソリューション。魚谷氏がグローバル経営を追求する中で重視するキーワードだ。
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