2021-06-18

経済同友会・櫻田謙悟代表幹事「日本は『新しい日本株式会社=コーポレートジャパン』の構築を」

櫻田謙悟・経済同友会代表幹事

「コロナ禍が日本にとって何だったのかを、しっかり記録しておくことから出発すべき」──櫻田氏はこう語る。新型コロナウイルスの感染拡大は、日本が潜在的に抱えていた課題、弱さを浮き彫りにした。今後、コロナが収まったとしても「これを忘れてはいけない」と櫻田氏。特に日本は官民で自らの強みを見つめ直し、取り組んでいく必要があると強調する。

「計画」はできても「執行」が弱い日本


 ─ 新型コロナウイルスの感染拡大は日本の危機管理のあり方など、様々な課題を浮き彫りにしたと思います。櫻田さんはどんな考えを持っていますか。

 櫻田 今回のコロナ禍における政府の危機管理について言えば、最初は国民の自主的な取り組みに期待するという緩い規制から入りました。しかも、法律の限界があり、「緊急事態宣言」といってもペナルティを科すような形にはできませんでした。

 その後、法改正に動いたわけですが、諸外国の「ロックダウン」(都市封鎖)のような厳しい措置を取ることができなかったがゆえに、感染を抑えきれませんでした。

 ─ とはいえ、感染者数、死亡者数ともに欧米に比べれば低い水準で来ています。

 櫻田 日本において感染が低い水準で抑えられた未知の要因として、京都大学の山中伸弥教授などは「ファクターX」と名付けて解明を進めようとしています。あるいは、日本人の清潔観念の高さも要因として挙げられるかもしれません。

 ただ、私は日本の医療体制は世界に冠たるものだと思っていました。実際に国民1人あたりの病床数や病院施設数では、世界でもトップクラスだと思います。それなのになぜ、医療崩壊が叫ばれてしまうのか。

 ─ この要因をどう考えていますか。

 櫻田 調べてみたら、国民1人あたりの医療関係者の数は圧倒的に少ないということがわかったわけです。

 ですから高齢者福祉施設という川上サイドが崩壊したら、その悪影響はあっという間に川下サイドの病院に及んでしまうことはわかっていたにも関わらず、病院への支援が遅く、対症療法になってしまった。

 何を申し上げたいかというと、コロナ禍によって、我々が今まで当然だと思っていたことが、実は違っていたのだということに気がついたわけです。

 製薬企業の技術レベルは高いにも関わらず、限られた製薬会社以外、自国でワクチンを開発できない。マスクをつくることもできない。冗談で「日本を殺すにはミサイルはいらない。マスク1枚あればいい」と言われているそうです。それほど、サプライチェーンを含めた危機管理への認識が弱かった。コロナでこの問題が一気に噴き出してきたのです。

 ─ こうして明らかになった課題を受けて、我々はどのように対応すべきだと?

 櫻田 そろそろ振り返ってみないといけないと思います。日本のGDP(国内総生産)に占めるコロナ対策関係費は世界最大級の割合になっており、かつご存知の通り財政赤字は世界最大級となっています。

 アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスなどでは、すでにこうした最大級の支援が財政から支出されたことに対して危機感を持っており、これをどうやって是正していくか、つまり財政赤字を解消していくのかという議論が始まっています。一方、今の日本ではこうしたことを言うと、まるで非国民であるかのような扱いになる。こんなことでいいのでしょうか。

 いわば、悪い材料が全て噴き出してきており、それを何とかしなければならない状況ですが、今はっきりしていることは、最後の望みはワクチンであり、幸い、その見通しは立ちました。

 次に露呈した課題として、日本はプランニング(計画)はいいけれども、エクセキューション(執行)に問題があるということがあります。

 ワクチン接種にあたっての混乱を見て思ったことですが、これはワクチンだけの問題なのだろうかと。実は日本が計画をしても執行が弱いというのは、過去からずっとあった話ではないでしょうか。

コロナ禍では現場力が生かせず


 ─ 日本が長年にわたって抱えてきた課題だということですね。一方でよく「現場力」の強さも言われます。

 櫻田 ええ。確かに本来、日本は現場力が強く、SOMPOホールディングスも私が社長を務めていても、現場がしっかり考えることで、企業としてそれなりの成績を残すことができています(笑)。これは日本人のすごさだと思いますが、コロナ禍では、この現場力の強さが生かされていません。

 ルールを上が決めて、それに従って実行しなさいという形になっていますから、現場の知恵を生かすような仕組みになっていません。しかも、例えば市区町村それぞれが連携、横展開をせず、バラバラに動いている。

 ─ 日本のガバナンスの課題が出てきていると。

 櫻田 そうです。ガバナンスは執行がよくなるためにあるべきものだと思いますが、それが逆になっています。上はああだこうだと、いろいろなことを言いますが、現場に人が足りていませんし、裁量権も与えていません。

 私はこれまで何度も申し上げてきましたが、例えばワクチン接種の人手が足りないのであれば、お仕事を一旦休んでいる看護師に出て来てもらうにはどんな対応が必要なのか、現場のニーズを正しく把握し、早急に対処することが必要だということです。今、政府も接種の担い手を広げようとしていますが、思うように進んでいません。しかも、かかりつけ医のクリニックでも、発熱のある人は受け付けないところもある、という実態もあります。

 ─ コロナワクチンは血管ではなく筋肉に注射しますから、打つことができる人は多いという意見もありますね。

 櫻田 そういう実態に対する議論すらないわけです。しかも、接種を担って欲しいと頼まれた側も自信がない。なぜなら、失敗した時には責任を問われてしまうからです。誰もが常にリスク回避の側に動いてしまうというのが、この国がいつの間にか陥ってしまった病で、これでは成長戦略は生まれません。

 ─ 「失敗しないように」という形で思考が縮こまってしまっているわけですね。

 櫻田 ええ。そしてプランニングをした後に、このプランでロジスティクスを含めて現場は動くだろうか? という部分を知らない人たちがプランニングしている可能性があります。これは大変怖いことです。

「喉元すぎれば……」というのは日本の国民性で、いい部分でもありますが、今回は忘れてはいけないことがたくさんあると思います。

 私が考えているのは、新型コロナウイルス、COVID―19が日本にとって何だったかを、しっかり書き留めておいて、これからの材料にしていく。奇貨としていかなければならないだろうと思っています。これを、できれば経済同友会でやりたいと思っているのです。

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