2021-06-18

経済同友会・櫻田謙悟代表幹事「日本は『新しい日本株式会社=コーポレートジャパン』の構築を」

櫻田謙悟・経済同友会代表幹事



「新しい資本主義」とは?


 ─ 確かに今回、官民の連携もうまくいっていません。官が変わらないと民間も思うように動けないということもあると思います。

 櫻田 この課題は、ワクチンが行き渡って、コロナが落ち着いたとしても忘れてはいけないことだと思います。今おっしゃった事例のように、日本の弱さ、課題を示している例があちらこちらにありますから、先程申し上げたように、これを忘れずに書き留めておこう、ということが今の私の最大の提案です。

 課題として、最も大きいのはガバナンス、そして様々な関係者同士の横連携、あるいは省庁の縦割り、さらには民間の関与の仕方といったこともあるでしょう。いろいろな課題を記録に残す。まずはそこからスタートすることだと思います。

 ─ ここに経済団体としての経済同友会の役割があると。

 櫻田 私は、経済同友会を経済団体と定義する必要がないと思っているのです。設立趣意書を見ると、敗戦の直後、焦土と化し、荒廃した中から日本が立ち上がろうという中で、若い経営者が集まって知恵を絞ることから出発しています。今回も同じで、日本はコロナによって山ほど課題を抱えていることがわかったわけです。

 それに対して経済人として、あるいは経済人でもある国民として、経営者として、解決するための場、国民議論の場をつくることはできないかと考えました。それが2020年9月に立ち上げた「未来選択会議」です。

 ─ ある意味で様々なことをゼロベースで発想していく必要がありますね。

 櫻田 私はガバナンス、「企業は誰のものか」という議論が大事だと思っています。例えば、世界経済フォーラムの年次総会「ダボス会議」では、会長のクラウス・シュワブ氏が「グレートリセット」と言っています。

 今、世界で議論され始めた「新しい資本主義」というのは正しい観点だと思っています。利益を上げればいい、といった価値観から早く変えないといけない。

 例えば、企業は従業員に給与を支払います。従業員はその働きによって価値を生むわけですから、給与も価値ととらえるべきです。しかし、これをコストと捉えているのが、今の資本主義です。

 人件費やESGに関わる資金を、コストではなく価値ととらえて、その価値を最終的な利益に戻す、足していくという考え方もあります。それに基づくと、ある会社の出している価値とは、当期純利益に、それを生み出すためにかけたコストのうち、社会にプラスになっているものがあれば、それを割り戻したものも加える、という風にとらえていかなければいけません。私はこれが、新しい資本主義の考え方だと思っています。

GAFAMが東証1部の時価総額を超える中で…


 ─ この新しい資本主義は、従来日本が持ってきた考え方でもありますね。

 櫻田 そうです。その意味では日本は自信を持つべきです。我々はどこに強みを持っているのか、もう一度足元をしっかり見つめ直す必要があります。

 日本には経済規模、ソフトパワーだけでなく、グリーンに関することなど、技術力もあります。日本が最先端をいっているもの、他の国に劣後していることを再確認して、守るべきもの、強くしていくべきものについては国も音頭をとって集中していくべきです。

 この姿を、私は「新しい日本株式会社=コーポレートジャパン」だと、政府の成長戦略会議でも申し上げたのですが、皆さんはなかなかピンとこなかったようです(笑)。

 私がなぜ、こんなことを言っているかというと、GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)の5社の時価総額が、東証1部に上場する約2200社の時価総額を超えています。

 もし、企業価値イコール時価総額だとすると、2200社よりもGAFAMの方が価値があるということになるわけです。そうなると、日本全体がアメリカに比べてそんなに価値のない国なのかという話になりますが、そんなことはあり得ません。

 ということは何かがおかしいわけで、それは価値の測り方が間違っているのだと思います。測り方を変えていくためには、日本も口で言うだけではなく、世界に対してエビデンス(証拠)を示していかなければいけません。

 それを国だけがやる、企業だけがやるのではなく、国と企業がよく話し合って「この分野は強くなっていこう」、「ここは他国のものを利用しよう」、「これは安全保障に関わるので何が何でも自力でやろう」ということについて、しっかり合意する。これが新しい時代の産業政策論だと思うのです。

 ─ 産官学がもっと対話、連携するということですね。

 櫻田 そうです。1社でGAFAMと戦うのではなく、連携していく。これが令和時代の「コーポレートジャパン」ではないでしょうか。

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