2020-12-18

みずほ銀行・藤原弘治頭取が語る「銀行業務デジタル化」の課題

藤原弘治・みずほ銀行頭取

コロナ禍で問われる銀行の真価

「コロナ禍は銀行の矜持を示して、存在意義を感じていただける大事な時期、機会だったのではないか」と話すのは、みずほ銀行頭取の藤原弘治氏。

 新型コロナウイルスとの戦いは、未だに終息の気配を見せず、長期戦となっている。今回の危機の中では、資金繰りの厳しい企業に対して政府系金融機関のみならず、民間金融機関でも実質無担保・無利子融資が実施できるようになるなど、まさに官民挙げて対応を進めた。

 2008年のリーマンショックは金融機関発の危機だったこともあり、当時はみずほ銀行を始め、銀行は「守り」に追われた面が強い。「あの時、十分に機能を発揮できたかというと、忸怩たる思いもある」と藤原氏。

 その分、今回の資金繰り対応には「手応えを感じている」という。融資依頼は6月時点の受付ベースで17兆円、実行は予定や融資枠の設定を含め約11兆円まで来ている。

 みずほ銀行は1873年の第一国立銀行に始まり、約150年の歴史を持つが、これまでに国内外の企業に対して行ってきた融資は約88兆円。この短期間に約11兆円というのは、相当な規模であることがわかる。

 資金需要は、グローバルに活動する大企業、中堅中小企業、町の小規模店舗まで多岐にわたったが、「例えば、町の商店街で30年間、一度もお借入をされたことがなかったようなお客様がお金を借りにきてくださったり、外資系で、従来は親会社による内部のファイナンスを受けていたお客様が国内銀行である我々の融資を受けるといった、これまでになかったような借り入れの動きがあった」(藤原氏)。

 藤原氏は緊急事態宣言が明けて以降、約170店舗の営業現場を回り、行員との対話を進めてきた。中でも若手行員達は、10年以上続く日本のデフレ、低成長、資金需要の少ない中で過ごしてきただけに、危機時に取引先から融資の相談を受け、時に感謝されるという経験を、ほぼ初めてした。

「ある支店では、『頭取、私はこういう仕事がやりたくて銀行に入ったんです』と笑顔で言ってくれる行員もいた。この危機の中で、彼ら自身が逞しくなってきたと思う」(藤原氏)

 緊急事態宣言の中でも、銀行店舗は企業、個人の資金繰り支援等を継続すべく、政府、金融庁から開け続けることを要請された。感染リスクがある中で出勤を続けた銀行員は、医療従事者などとともに「エッセンシャルワーカー」(生活維持に必要不可欠な業務に従事する人)と呼ばれた。

「店舗に加え、本部や事務センターなど、様々な工夫で頑張ってくれたことに感謝している。私がこだわってきた、自ら『考え・動き・実現する』という行動様式が根付いてきたことを感じる」と藤原氏。

 足元の資金需要は、全国銀行協会の貸出残高によると9月末で前年比6・1%増、8月との比較ではマイナス0・1%という状況で「一服感がある」。

 大企業は来年度半ばから来年度いっぱいまで資金調達を終えているところが多いという認識。一方、中小企業は手元の現金レベルが月額売上額の1・9カ月というところが多いというが、一部には売り上げが落ちる中で固定費を支払い続けているところもあり、「年末から年度末にかけて2回目の融資が必要になってくるかもしれない」と指摘。

 特に冬場はインフルエンザの流行期が訪れ、コロナの第2波と重なる懸念もある。それで企業の経済活動が停滞した時に、改めて銀行として取引先を支えることができるかが問われる。

さらに資金繰りに加え、取引先の事業性を見て、先々の事業展開まで寄り添えるかという、銀行の真価が問われる。

「これまでは官民総動員で、とにかく資金繰りを支えてきたが、今後はその先の事業についても一緒に見ていくというサポートが大事。みずほが標榜している『次世代金融への転換』に向けても力の発揮のしどころ」と力を込める。

 藤原氏は「コロナ禍は、これまで企業が抱えていた潜在的な課題を顕在化させた」という認識を示す。例えば、企業のアジア事業が中国に偏っていなかったか、法人向け事業ばかりに注力して個人向けが手薄になっていなかったか、そもそもデジタル化が遅れていなかったか、後継者や提携先を見つけられているかといった課題である。今後、銀行に問われるのは融資とともに、これらの課題解決に力を発揮できるかである。

 事業の先行きが見えた取引先に対しては格付けの下支えなどに向け、劣後ローンなど資本性のある資金の供給も必要。これについては「1兆円レベルのパイプラインがすでにある」(藤原氏)。この分野には近年進めている政策保有株式を縮減して生まれた余力も振り向けていく。

「我々が資本性の資金を入れていくことで銀行団がまとまりやすくなり、支援の姿勢を変えずに済む。これは非常に大きな意味がある」と藤原氏。

「事務処理の場」から「コンサルティングの場」へ

 危機の中で銀行の役割が再認識された一方、コロナで「非接触」ニーズが高まり、サービスのデジタル化をさらに進めることが求められている。特に今、菅義偉首相が「デジタル庁」の創設を進めており、デジタル化推進の機運が高まっている。

 藤原氏も「デジタル化は官民挙げて日本のインフラ、企業戦略を変えていく大きなキーワード」と話す。デジタル化は銀行側の業務を効率化するだけでなく、様々な事情で店舗に来店できない顧客の利便性を高めるための取り組みでもある。

 近年、みずほフィナンシャルグループは他の2メガに先駆ける形で、様々なデジタル化の取り組みを進めてきた。

 キャッシュレス決済の「Jコインペイ」、LINEとの合弁で立ち上げを進めるネット銀行「LINE Bank」、AIスコア・レンディングと情報銀行機能の「Jスコア」──。そして「次に来るのは"本丸"である銀行店舗のデジタル改革と、情報提供サービスの強化だと思う」と藤原氏。

 前者の銀行店舗でのサービスに関しては、すでに変化が表れている。みずほ銀行が提供しているスマホでの口座開設アプリの利用は前年上期対比で利用が約2倍、法人の電子契約サービスの新規申し込みも約2倍。

 一方で今後、紙の使用量と、事務処理の時間は半分になる予定。この「2つの倍増と2つの半減」は、銀行の業務を取り巻く環境の変化を象徴している。

 店舗での事務が減り、残る後方事務は「ビジネス・オフィス」(BO)と呼ばれる事務センターに集約する。こうなると銀行店舗の役割は顧客への「コンサルティング」を担う存在に変わっていく。「デジタル化によって、コンサルティングの充実が図られていく」(藤原氏)

 もう1つ、見逃せないのがシステム。みずほFGは発足後2度の大規模システム障害を起こすなど、常にシステム問題に悩まされてきた。

 しかし19年に新たな勘定系システム「MINORI」が全面稼働。4000億円台半ばに上る費用を投じ、稼働とほぼ同時に約4600億円を減損したが、今も一世代前の勘定系システムを使用する他メガにない最新システムとなった。「内外との接続柔軟性があり、保守管理の効率化で生産性も高い。我々は大きな武器を手に入れた」

 この10月から、一部の店舗ではタブレット端末と「MINORI」が接続、顧客が入力した情報を直接システムに送ることができるようになった。12月には全店に配備される。タブレット端末と勘定系システムとの直接接続はメガで初めて。

「店舗が変わることを実感していただけると思う。利便性、セキュリティが向上するとともに時間を有効にお使いいただけるところが大きなポイント」

 11月9日には「次世代店舗」の1号店・武蔵小杉支店(神奈川県)がリニューアルオープン。前述のタブレット端末とMINORIとの接続によって「ペーパーレス」、「印鑑レス」、「オペレーションレス」という「3つのレス」を実現。店舗を「事務処理の場」から「コンサルティングの場」へと変えていく取り組みが進む。

みずほ銀行武蔵小杉支店
次世代店舗の1号店となった、みずほ銀行武蔵小杉支店(神奈川県川崎市)

 また、情報提供サービスの強化に関しては、「ミーポット」という法人向けの新たな枠組みを立ち上げた。みずほFGが持つ統計データと、外部の統計データ、みずほFGのパートナーが持つ非金融データを統合し、提供するサービスを行う構想。

 例えば、飲食企業がある地域への出店を考える際に、その地域の人々の年齢層、所得、行動様式をデータから洗い出し、最適な出店場所を推計できる。また、ビジネスマッチングへの利用も想定している。藤原氏は「こうした情報提供サービスは、将来のみずほにとってコア業務の1つになる」と見ている。

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