近年は上流にある“フリット”へ注力
―― 岡本硝子は1928年(昭和3年)の創業から93年が経ったわけですが、何か岡本さんが期待する新しい製品はありますか。
岡本 非常にユニークなのが昨年6月に発表した深紫外線反射膜製品です。これは新型コロナウイルスを不活性化できるという、250~280㌨㍍(10億分の1㍍)くらいの非常に波長の短いUV-C帯域を効率良く反射する厚膜で、今まで培ってきた硝材開発技術が活かされています。
ガラス屋が何でこんなことやっているのだと思われるかもしれませんが、フリットと呼ばれる特殊ガラスの粉を歯磨き粉のようなペースト状にして反射面に塗布し、効率よく新型コロナウイルスなどを不活性化するものです。
すでに国際特許も出願しておりまして今、一生懸命拡販しているところです。
―― これは医療機関など、いろいろなところで需要があるでしょうね。
岡本 ええ。多くの場面で応用できると思いますので、われわれも楽しみにしています。
あとは、先の5G通信基板用のグリーンシートで、基板の基となる、ガラスの粉を練りこんだシートで、このシート向けのフリットを開発しました。これを使うとロスなく高速かつ大容量の通信を行うことができるので、今後期待できる分野であると思います。
このように、われわれはガラス製品だけでなく、ガラスの粉というものに5年ほど前から注力してきました。
―― 付加価値のある製品づくりということですか。
岡本 仰る通り、高付加価値の製品をつくるということです。
いわゆる、スマイルカーブといわれる現象(上流の原材料、あるいは下流のサービスは付加価値が高く、真ん中の組み立て工程の部分はあまり高くない)がありますが、最近は上流でも下流でも付加価値のとれる幅が非常に狭くなってきましたので、原料ならさらに上流の方にということで、フリットに注力してきました。それが5年くらいをかけて、ようやくコロナ禍で実を結びました。
―― これは全産業に当てはまる話かもしれませんね。
岡本 そうですね。やはり、企業は、分野を問わず、従来と同じことをしていては生き残ることはできません。そして、時代の変化がより早くなっていますので、われわれもよりスピードアップしていかなくてはならないと考えています。
―― その結果が昨年11月に経済産業省・中小企業庁が主催する『はばたく中小企業・小規模事業者300社』に選定されたことにもつながってくるわけですね。
岡本 そう言っていただけると嬉しいですね(笑)。需要創出ということで選んでいただいたわけですが、先ほどから申し上げているように、従来のガラス屋のままでは生き残ることができません。これからもいろいろと試行錯誤を重ねながら、新たな需要を創造していきたいと考えています。