2021-07-06

【なぜ、日本は非常時対応が鈍いのか?】三菱総研理事長・小宮山 宏の「有事への対応は『自律 ・分散・協調』体制で」

「今は、産業や社会の転換点」として、三菱総合研究所理事長・小宮山宏氏はガバナンス(統治)の変革を促し、社会全体の有り様を見直すときと訴える。日本はコロナ危機で、欧米主要国と比べて、感染者や死亡者数ははるかに少ないのに、同程度に経済のダメージを受けた。「日本は伝統的な対策に依存して、科学的対応に失敗したのだと思うんです」という総括。日本はワクチン接種に遅れ、PCR検査も徹底できずに来ている。何よりワクチン国産化も遅れを取り、非常時(有事)の態勢づくりが遅いという課題。タテ割り行政の“弊害”に加えて、危機にあって、リーダーが責任を取れない、あるいは取ろうとしない“体質”を含めて、社会全体の有り様の見直しである。『課題先進国』の日本は、自ら解決策を掘り起こしていく責任と使命があるという考えから、国だけが強いリーダーシップを発揮するモデルではなく、自治体や民間企業などの知恵も活用すべきと小宮山氏は訴える。その『自律・分散・協調』体系とは。

なぜ、非常時体制を日本は作れないのか?

「とにかく、日本のやる事はスピードが遅い」─。こうした声を随所で聞く。

 自由主義国で先進7カ国の首脳の集まりである『G7』は6月11日、英国・コーンウォールでパンデミック(世界的大流行)への対策と中国への対応、気候変動問題を協議、今後、力を合わせていくことを確認し合った。

 この先進7カ国の危機対応を『ワクチン接種』で見ると、日本が非常に遅いことが分かる。〝ワクチンを少なくとも1回接種した人〟の割合は、カナダがトップで64・1%、2位は英国で60・53%、3位は米国で51・66%。次いでイタリア47・22%、ドイツ47・19%、フランス44・18%という数字。

 これに対し、日本は12・60%で新興国のブラジル(25・04%)、インド(14・31%)より低い。

 絶対的な感染者数、死者数では日本の数字は確かに低い。ちなみに、感染者数17 万1800人強、死亡者数1万3990人(6月11日現在)。

 米国の感染者数3342万人強、死亡者数59万8700人強、フランスの感染者数579万人強、死亡者数11万人強などと比べても、日本の絶対数は少ない。

 それにしては、「感染者も死者も少ないのに、経済は同じ位にダメージを受けた」という現実を三菱総合研究所理事長・小宮山宏氏は指摘しながら、国内の自殺者が増加している点を注視する。

 昨年5月から今年4月までの間に自殺者が前年比3300人以上増えている。「これまで10年以上、日本の自殺者は減ってきていました。それが昨年の5月から増えたというのはコロナ以外に原因は考えられない」と小宮山氏。

 コロナ禍が始まる2019年までの10年間、自殺者の数は減少傾向にあった。2019年のそれは2万人。過去3万人台を記録したことから比べると、歓迎すべきトレンドであった。

 この流れに変化が出てきたと関係者が注目したのが政府統計。警察庁が出した昨年10月の自殺者は2153人と前月と比べて急増。厚生労働省がまとめた2020年11月27日時点での新型コロナ肺炎による死者数は2087人で、それを上回ったのである。

 コロナ禍が精神衛生面で人々に深刻な影響を与えているという現実。

「いろいろな意味での孤立が深まっているんだとわたしは思っているんです。経済面で苦境にある、ウツになる、あるいはドメスティックバイオレンス(家庭内暴力)とかいろいろ原因はあります」

 小宮山氏が続ける。

「コロナ禍で今は亡くなった人が1万4000人近くいるところで、後遺症や副作用が残っているという人もいる。それに加えて、ウツなど精神不調になった人は、自殺者の何倍もいると思いますね。欧米はロックダウン(都市封鎖)を行ったりしていますが、日本も緊急事態宣言をやったり、解除したりと、こんな事を繰り返していれば、心がおかしくなると思います」

 コロナ禍が発生して1年半の日本の対応をどう総括するか?

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本誌主幹・村田博文

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