2021-07-06

【なぜ、日本は非常時対応が鈍いのか?】三菱総研理事長・小宮山 宏の「有事への対応は『自律 ・分散・協調』体制で」

「結局、自立・分散・協調体系で臨んでいくほうが賢明」と小宮山氏はガバナンス(統治)の方向性について語る。

 行政のタテ割り構造の延長線上で、政府が指示を出し、北海道から沖縄まで同じルールで一律にやる─という方式ではもはや限界に達したということ。国レベルで見ても、「ガバナンスの良い小規模国家はやはりうまく対応しています」と小宮山氏は強調。

 例えば、イスラエル(人口約900万人)はワクチン接種を完了した人が約514万人強(6月13日現在)。6割近い人が打ち終わったことになる。集団免疫を持てるのは7割位の接種率が目安とされる。同国の場合は、昨年12月中旬から接種を開始するなど、とにかく打つ手が早いことを世界に印象付けた。同国では、昨年秋の感染症の蔓延、そして今年初めの蔓延で緊張感が高まったが、年末からの接種開始で今年4月初めにはほぼ〝鎮圧〟した格好。

 事情は国によって違う。「要するに、自分の地域の特性、自分の国の特性に合わせてきちんとやれば、対応できるんだと思います」

 その国の特性に合わせた対応、同じ国でもその地域の風土、特色に合わせた取り組みがあるという小宮山氏の考え方。これが自律・分散・協調方式の核となる考え方である。

ファイザーはなぜ、短期間にワクチンを作ったのか?

 要は、誰がリーダーシップを取って、行動していくかである。

 今回のコロナ危機では、日本は対策を打つうえで、そのスピードの遅さが浮き彫りになった。対応の遅さの原因として、すぐ挙がったのは、行政組織のタテ割りの弊害。コロナ対応の主務官庁・厚生労働省内では医務系、薬務系と役割分担があり、それにトップの事務次官をはじめとする事務系の3構造となる。

 もちろん、それぞれの役割と任務があり、専門家集団の存在は必要なのだが、非常時(有事)に機敏な対応が取りにくい体質になっている事への反省が必要とする指摘は根強い。

 ワクチン接種は菅義偉首相が必要に掛け声をかけ、接種の進行スピードは早まってはいる。しかし、先述のG7(先進国首脳会議)の中で、接種率が10数%と他の国々の50%前後、あるいは60%といった数値と比べて、〝危機管理のまずさ〟は一目瞭然だ。

 それに加えて、国産ワクチンの製品化の遅れである。なぜ、日本は出遅れるのか。「ワクチンは経済性から言えば、もともと収益のあがる市場ではない。そういう事情もあるけれども、それはどの国も同じ。その中で、必死にやるかどうかで物事は決まるということ」

 平時ならともかく、非常時に当事者が課題解決に、「必死で取り組むかどうか」で成否は決まるという小宮山氏である。ワクチン開発には4年以上かかるということは新薬業界にとっては常識。それをどうやって米国の製薬企業・ファイザーやモデルナ、さらには英国のアストラゼネカは1年でやってのけたのか?

 ファイザーとモデルナ両社のワクチンは、〝メッセンジャーRNA(mRNA)〟というウイルスの遺伝情報を人に投与するという新たな発想で作られた。その遺伝情報を基にして、体内でウイルスのたんぱく質を作らせ、それによって免疫力を高めるというやり方。

 これは製薬業界では異端の考え方とされてきたが、これを平時に研究してきていたのがドイツのベンチャー企業であるビオンテック社。同社の創業者はトルコ出身の研究者だという。

 多くの研究者と研究施設やノウハウなどの研究インフラと豊富な資金力を持つファイザーと、ガン研究のためにmRNAの技術を開発していたビオンテック両社が提携することで、ワクチンを1年後の2020年末に完成させることに成功。

「mRNAを使う作り方、これは前から分かっていた。しかし、それがワクチン関係者の常識になっていなかった。mRNAとワクチンを作る人をうまくくっつければ新結合ですよ。ファイザーはそれをやってのけた。ファイザー自身にも大量生産の技術とか、例えば治験スピードを上げるためのノウハウがある。そういう両者の資源をくっつけることを必死になってやった」

「必死で世界トップの知を集めて作った」という氏の評価だ。

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本誌主幹・村田博文

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