2021-06-30

【政界】行政の縦割り構造など「有事」に弱い日本をどう立て直していくか?

イラスト:山田紳

東京五輪の開幕を約1カ月後に控え、首相の菅義偉が新型コロナウイルス対策の「切り札」と位置付けるワクチン接種がようやく本格化した。6月に国産ワクチンの開発を促進する長期国家戦略も決定した菅政権だが、昨年来のコロナ対応は出遅れが否めず、行政の縦割りの弊害も目立ち、「有事」に弱い日本の姿をさらす結果にもなった。法整備を含めた抜本的な機構改革が求められるが、非常時の体制を構築できるか。10月に任期満了を迎える衆院選を目前に菅を取り巻く自民党内の情勢は流動的だ。

ワクチン接種に没頭

 6月以降、菅はワクチン接種の回数が日を追うごとに増えていることに手応えを感じているようだ。

「とにかく、やれ」

 菅はワクチンを担当する行政改革担当相の河野太郎らに1日に何回も電話をかけ、こう叱咤しているという。河野らが菅の細かい指示をこなしきれないうちに「どうなった? 」と問い掛けられ、さらに次の指示が矢継ぎ早に飛んでくるありさまで、ワクチンにかける菅の必死具合がうかがえる。

 その成果もあって、政府は9月までに必要な数を上回る1億2000万人分以上のワクチンを確保。大規模接種会場が各地に設置され、職場や大学での接種も認めた。

 菅は5月7日の記者会見で「1日100万回の接種を目標とする」と掲げた。この時点の1日の接種回数は13万回程度で、首相官邸内でさえ「いつになったら100万回達成できるのか分からない」との声が上がっていた。

 ワクチン接種の課題は、打ち手の不足だった。医師や看護師だけでは足りず、本来はワクチン接種という医療行為が認められない歯科医師、救急救命士、臨床検査技師にも特例で接種を認めた。菅が陣頭指揮をとるこうした「ワクチン接種大作戦」は結果を出しつつあるが、その過程では危うさも露呈した。

 厚生労働省の幹部は、菅が掲げた「1日100万回」の接種目標について、「積算根拠はなかった」と振り返る。菅は4月23日の記者会見で、7月末までに65歳以上の高齢者約3600万人に対する1人2回の接種を終えるとの目標を示し、「政府を挙げて取り組む」と宣言した。高齢者への接種は4月12日にようやく始まり、この時点で2回目を終えた人は原則おらず、1回でも接種した人も十数万人程度だった。

 必要な接種(約7200万回)を7月末までに終えるには、菅が「100万回」を打ち出した5月上旬から残り80日間で終えなければならず、1日当たり90万回程度の接種が必要なことから、菅がキリのいい「100万回」を打ち出した。数字ありきで号令を出し、打ち手の確保などの整備は後付けで調整したのが実態だった。

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