2021-07-03

【人気エコノミストの提言】所得環境と連動して悪化中の消費マインドも注視

日本経済新聞が5月30日に朝刊で発表した2021年の賃上げ率に関する調査結果は1・82%(前年比▲0・18%ポイント)になった。職歴等に応じた給与水準の定例的な上昇(定期昇給)が1・8%程度と一般にみられているので、この結果は主要企業全体では「ベアゼロ」になったことを示している。これより前に発表された2つの調査も同様の結果であり、連合の第5回集計(5月6日時点)は1・81%(同▲0・12%ポイント)、日本経団連の第1回集計は1・82%(同▲0・21%ポイント)である。

「物価の上昇が鈍いのは賃金の増加が鈍いからだ」と考えた安倍内閣(当時)が14年に始めたのが「官製春闘」である。組合の賃上げ要求を政府が支援するという、以前では考えられなかった状況が現出した。21年の賃上げ率の集計結果は、その14年以降では最も低い数字であり、先行きに出てくる厚生労働省の公式統計でもそうなる可能性が高い。

 さらに、大手企業の21年夏のボーナス妥結額は、日経新聞の中間集計で73万923円、前年同期比▲3・64%になった。3年連続の減少である。製造業では食品、紙パルプ、精密機械がプラス。非製造業では百貨店・スーパー、その他小売業、陸運、通信で昨夏の実績から増加したものの、数で言えばマイナスの業種の方が多い。

 では、こうした所得環境の悪化が今後の個人消費に及ぼす影響について、どのように考えるべきだろうか。政府が昨年実施した一律10万円の現金給付は、アンケート調査の結果によると、かなりの部分が使われずに貯蓄に回ったようである。そうした部分も寄与している家計の手元現預金の水準切り上がりや、水面下で蓄積中とみられる購買需要(いわゆるペントアップ需要)の存在を重視して、消費の今後を楽観視する見方もある。

 けれども、筆者としてはより厳しい見方をとりたい。ワクチン接種率はまだ低く、コロナ禍が収束する時期は見えていない。企業業績は「K字型」とも形容される、業種ごとにばらつきが大きい状況であり、広範で力強い景気回復は期待できない。そうした中でフローの所得状況が悪化すれば、家計は相応に消費行動を慎重化させるとみるのが自然だろう。

 5月の消費動向調査で、消費者意識指標(二人以上の世帯・季節調整値)のうち、「収入の増え方」と「雇用環境」は、いずれも2カ月連続で低下した。足元の水準は「コロナ前」に比べるとかなり低い。それらを含めて算出された消費者態度指数も2カ月連続で低下しており、内閣府は基調判断を「持ち直しのテンポが緩やかになっている」に下方修正した。

 雇用・所得環境の悪化をにらみつつ、消費マインドがじわりと悪化してきていることは、景気全体のこの先の動向を考える上で見逃すことはできない。

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