2021-07-16

【2022年から不妊治療が保険適用】 ソニー出身女性起業家・角田夕香里が目指す「AIを活用した女性医療」

角田夕香里・vivola代表取締役CEO

少子化対策として、子育て支援に加え、2022年から不妊治療が公的医療保険の適用となる。NPO法人Fineが調査したアンケートでは、不妊治療に100万〜200万円かかった人が24%と最も多くなっている。高額な治療費負担が軽減される形だが、公的支援がスタートしても、不妊治療に対する社会の理解の低さは高い壁といえる。そうした中、不妊治療の課題解決に向けた事業を展開するのがvivola。代表の角田氏が目指す、女性医療のあり方とは──。


不妊治療の3つの課題

「理系だったので、個人的に読んだ論文の内容や300人のデータをエクセルに入れて自分に似た人を探したりして、不妊治療に関する情報を匿名でアップしていたんです。それに対する反響が大きく、サービスにしたらもっと多くの人に届けられると思い、会社を立ち上げました」

 こう語るのは、vivola代表取締役CEOの角田(つのだ)夕香里氏。vivolaは2020年5月「人生100年時代の女性医療を支えるAIサービスの提供」を目指して設立された。

 20年6月から不妊治療データ検索サービス『cocoromi』のベータ版を提供、21年4月アプリとして正式リリースした。

『cocoromi』は、自身もいち患者として角田氏が感じた不妊治療の課題を解決すべく開発されている。角田氏は不妊治療には大きく3つの課題があると語る。

 1つ目は「自由診療できたため、病院ごとに治療方法や費用にバラつきがあり、患者さんのリテラシーの問題もあって、自分に合った治療や検査の仕方がわからない」ということ。

 2つ目は、場合によって週3日の通院が必要になるなど、「ホルモン値の状況を見て『2日後に来て下さい』となるため通院日が予測できず、仕事と治療の両立が難しい」こと。

 3つ目は「体外受精の成功率は30%前後で平均治療期間も2年強と治療が長期化する」こと。

 これら33つの課題に対して、角田氏が出した解決策は、まず自分に合った治療法を見つける手助けとして「患者さん自身がアプリで治療データを入力してログ化すると、サマリーが見られる他、データを細かく記録すればするほど『自分と似た人のデータが見られる』ようにした」こと。

 例えば、年齢や婦人科疾患、パートナーのデータなど〝同質データ〟を参考にできるため、「自分と似た人はどんな治療をしているのか」を参考に治療の選択肢を考えられる。これが『cocoromi』の最大の特徴だ。cocoromi vivola

 アプリ利用者からは「平均治療期間や費用がわかるので治療の心構えができた」「データがたくさん載っているので、夫と話し合うときにも感情的にならず、前向きな話し合いができた」といった声があるという。

 また、治療の長期化への対策として、現在、オンライン診療のトライアルを進めている。

 全国で体外受精できる施設は618あり、そのうち320は1都3県に集中。地方は専門医が不足している状況だ。そのため1回の通院が1日がかりになることも多い。

 そこで「月4〜5回通う、日常的な卵胞チェックやホルモン検査は専門医のいる地域の産婦人科に通い、そのデータを『cocoromi』を通じて生殖の専門医の先生につなぎ、ホルモン剤の処方や服薬指導をオンラインでできるようなシステム」を考えている。

 アプリは患者データを収集するインターフェースという立ち位置のため、無料で利用でき、「有料課金の詳細な分析レポートなどを除き、マネタイズは考えていない」という。

 収益は、オンライン診療のシステム利用料など、病院側から得ていく方針だ。

 こうしてデータを蓄積し、最終的にはAIなどを活用し「個人に最適化された、できるだけ無駄のない、最短で妊娠できる治療を提示できるようにしていきたい」と語る。

 さらに将来的には、女性ホルモンという特化したデータを活用し、「他の婦人科系の疾患や産後うつや更年期への対応など、広い領域に事業を展開していけたら」と展望を語る。

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