2021-07-11

≪子宮頸がん≫の現状と今後の対策 青木大輔・慶應義塾大学医学部教授

青木 大輔・慶應義塾大学医学部教授




ワクチン接種率 向上のカギは母親



 ―― そんなに少ないんですか。やはり、ワクチン接種率が低いことが患者数の増えている要因だということですね。

 青木 そう短絡的に考えるのは間違っているとわたしは思います。一見そのように見えるかもしれませんが、正確なデータが出てくるまでは何とも言えません。しかし、ワクチンの接種を受けた者では、前がん病変の罹患が少ないという論文が発出される可能性が高いと思います 。

 わたしは、今は大きな社会的な実験データを取っている段階だと思うんですよ。ある学年までは接種率が7割を超えているのに、ある学年以降は零点何%まで落ち込んでいるのですから、この2つを比較すればいいわけで、もう少し経てばきちんとデータが出てくると思います。

 間違えていけないのは、これはがんにならないようにしましょうという一次予防という対策です。二次予防は、がんで死なないようにしましょうということで子宮頸がん検診。これは自治体の健康増進事業に位置付けられていて、20歳を過ぎたら2年に1回の検診を受けましょうということが推奨されています。

 ―― これはワクチンを接種したら病気にならないから、検診は必要ないということにはならないのですか。

 青木 やはり、一次予防も二次予防も両方大事ですよね。

 おそらく、ワクチンというのは100%予防できるものではないと思います。HPVのウイルスは200種類ぐらいのタイプがあって、そのうちの15種類ぐらいががんリスクの高いものに分類されています。ですから、ワクチンは100%予防できるわけではないと考えられるので、ワクチンの接種も子宮頸がん検診も必要だと思います。

 ―― そういう状況を踏まえた上で、啓発 の意味も含めて、子宮頸がんを減らすために、どこから手を付けていけばいいと考えますか。

 青木 やはり、勉強するというか、教育ですよね。昔から、ウイルスで発がんするがんがありますという教育を行っている中で、肝がんや胃がんは書いてあっても、ずっと子宮頸がんは抜けていました。

 ですから、まずはどのような病気なのかを知ってもらいたいですし、われわれのような専門家が集まる学会では10年近く前から要望していて、今度ようやく、がん教育推進のための教材(文部科学省)に載せてもらえることになりました。

 やはり、ワクチンががんに効くという漠然とした情報だけでも知ってもらいたいです。

 ―― これは社会がトータルで考えていくべき問題ですね。

 青木 あとは中学生がワクチンを接種してほしいということで考えると、キーになるのはお母さんですよね。近年、こんなにワクチンの接種率が下がってしまったのは、おそらくお母さんがノーサンキューなんだと思います。

 ―― 母親といっても30~40代ですから、彼女たちも打っていない世代ということになりますか。

 青木 定期接種になる前の世代ですから、おそらく打つ世代ではないと思います。だから、そういう方々への教育も大事だと思いますし、社会教育がしっかりしていれば、その後の検診もしっかり受けるようになると思います。

 検診も本当に効果的でして、日本で市町村検診と呼ばれている、先ほど触れました健康増進事業として行われているがん検診は、子宮頸がん、乳がん、胃がん、肺がん、大腸がんの5つです。この中で、子宮頸がん検診は最も効果が高くて、検診を受けるだけで死亡のリスクが8割減ると言われています。

 ですから、時間はかかると思いますが、まずは個々人が正しい知識を得ることから始め、社会全体で地道に理解を深めていくことが大事であると思います。

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