2021-07-13

「”ESG重視”の経営を行う企業は予期せぬリスクへの耐性が高い」 津坂純・日本産業推進機構社長

津坂純・日本産業推進機構社長



人として正しい判断を



 ―― 津坂さんが投資をしたり、企業再生を手掛ける上で、もっとも大事にしているポイントはどんなことですか。

 津坂 われわれが大事にしていることは、投資会社として何を目標にしているのかということです。よく投資会社というと株主価値の向上であるとか、リターンの追求が第一だと考える会社もあります。しかし、われわれはお金儲けが全てだとは考えていません。われわれの経営理念は全てのステークホルダーの利益を守ることにありますが、僭越ながら、その判断基準は、人として何が正しいか。全てがここに行きつくと。

 ですから、難しい局面に陥った時には、まずは人間として何が正しいのかをチームで議論して、そこで決断した上で前に進んでいく。それに尽きると思います。

 ―― 人として何が正しいか。そういうことを掲げる投資ファンドは珍しいですね。

 津坂 よく投資先の方から聞かれるのは、NSSKが大株主になって何が変わるのかということなんですが、われわれが一番大事にしているのは、従業員の幸せなんですよね。お客様も、株主も、サプライヤーの皆さんももちろん大事なんですが、やはり、ベースはその会社で働く従業員が幸せでないと、全てはうまくいかないと思います。

 もっとも、幸せの定義はいろいろあると思うんですが、われわれはやはり、そこで働くことを誇りに思える会社をつくりたい。何をもって誇りに思えるかは人それぞれ違うかもしれませんが、一つ統一しているのは、良い仕事をしたら従業員を褒めてあげることです。表彰したり、ボーナスをアップしたり、役職を上げたり、きちんと目に見える形で従業員の努力に報いてあげようということです。

 ―― 目に見える形で、というのがポイントですね。

 津坂 ええ。やはり、一つはキャリアパスですよね。従業員として幸せになるためには、これをこうすれば昇格できるんだということを明確に示してあげることです。自分は今30歳だけれども、50歳までに取締役になるためには、こういうことをしなければならないという道が見えて、透明性があれば、自分も出世できると考えて、若い頃から頑張れるはずです。うまくいかない会社はこの透明性がないので、人が離れていったりするわけです。

 一方、小さいお子さんがいる従業員であれば、中にはそんなにバリバリ働くことが難しいので、取締役になろうとか、社長になろうなどと思わない人もいますよね。しかし、きちんと30年間この会社でしっかり働きたいと思っているのであれば、安定かつ安心して、きちんと給料やボーナスをもらうことができるキャリアパスをつくってあげなければなりません。

 ですから、こっちを否定するのではなく、われわれは両方大事ですよと。そういう人事制度をつくることによって、従業員が働きたい会社になり、従業員の幸せにつながると思います。

 ―― 多様性を認めてあげる人事制度ですね。

 津坂 そうです。最後はやはりフェアでなければならないと思います。全てが公平でフェアであれば、なぜこういう判断に至ったのかを説明しても納得してもらえると思うんですよ。

 ですから、人間として正しい判断をするということ。この辺をわれわれは重視しています。もちろん、会社が伸びるための成長資金と、伸びるためにはいろいろな事業プロセスが必要ですから、そういった投資先企業がやってきていないことを伝授します。そして、人の幸せを尊重する。この3点セットを提供することで、投資先企業に成長してもらう。それが、われわれNSSKの信条です。

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