2021-07-14

「一部のお金持ちだけが富を享受するのはおかしい」【東レ社長・日覺昭廣氏】が唱える”日本的経営”

日覺昭廣 東レ社長

「社会貢献、公益資本主義に重きを置く日本的経営で、世界トップの素材企業に!」

東レ社長 日覺 昭廣
にっかく・あきひろ

「中長期の展望は2020年5月に発表しました。その時点でも、コロナは一過性で1〜2年で終息すると見ていたからです」

 先の見えないコロナ禍でも、一貫して中長期目標に向かってきた東レ社長の日覺昭廣氏。

 アメリカ型の金融資本主義に対しても、「ほんの一部のお金持ちだけが富を享受するのはおかしい」と異論を唱え、「従業員を大切にし、社会貢献、公益資本主義に重きを置く日本的経営」の重要性を訴えてきた。

 東レ、そして日覺氏の信念は〝素材には社会を変える力がある〟ということ。その信念のもと、カーボンニュートラル社会の実現に向けて「グリーンイノベーション事業」にも力を入れる。

 菅政権が昨年10月「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、日覺氏もその方向性を支持するが、人類が便利な生活を放棄することは難しく、「排出ゼロのハードルは高い。バランスを取ることが重要」と現実的な対応が必要と訴える。

 例えば、「飛行機に炭素繊維を使うことで燃費がよくなり、排出量が減るといったこともしっかりカウントしていく必要がある」と社会全体でカーボンニュートラルを実現しなければならないと考える。

 水素社会実現に向けては「燃料電池の材料になるカーボンペーパーや主要部材の膜・電極接合体のMembrame ElectrodeAssembly(MEA)」を生産している他、海水淡水化向けの逆浸透(RO)膜で培った技術を応用し、「水素分子のみを選択的に取り出せる孔径を持った膜を開発」するなど、水素製造のコスト低減を図っている。

 また、今年6月からは山梨県と、東レ、東京電力ホールディングス、東光高岳の3社で再生可能エネルギーによる電力でグリーン水素(製造過程でもCO₂を排出しない水素)を製造するシステムの試運転も開始した。

「必要な手は打っているので、売上高3兆円は手中に入ると思っています。だから、2030年には売上高5兆円を狙おうと。そうすると、完全に世界トップの素材企業になります。それが1つの目標です」

 東レが世界シェアトップを誇る炭素繊維が象徴するように、素材開発は長い年月を要する。従業員を大切にし、長期目線で物事を考える日本的経営で、世界トップの素材メーカーを目指す。(北川 記)

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にっかく・あきひろ
1949年1月兵庫県生まれ。73年3月東京大学大学院工学系研究科産業機械工学修士課程修了後、同年4月東レ入社。2000年工務第2部長、01年エンジニアリング部門長、02年取締役、04年常務、05年水処理事業本部長、06年専務、07年副社長となり、エンジニアリング部門・製品安全・品質保証企画室全般担当、水処理・環境事業本部長、生産本部長を兼務、09年水処理・環境事業本部全般担当、経営企画室長、10年6月社長に就任。

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