2021-08-03

米テキサス州オースティンから指揮 【リクルートHD 新社長】出木場久征の世界の何十億人に利用してもらう人材サービス戦略

リクルートホールディングス新社長 出木場 久征



米国と日本の風土の違い

 ベターリカバリー(better recovery)──。「このコロナ禍でも、アメリカは2019年より良くするんだと。絶対成長するんだという意気込みですよね。これはすごい気迫だし、政府も経済後押しにバシッとインフラ投資を押し進めようとしている」と出木場氏も語る。

 ITプラットフォーマーのGAFAが米国には生まれ、その米国が敵対する中国でもアリババグループやテンセント、ファーウェイなどの企業集団が誕生し、驚異的な成長を遂げる。
 国の生い立ち、人口構成の違いなどがあるが、もっと日本は潜在力を掘り起こしていけるはずだという出木場氏の思い。現状では、もどかしさも感じるとして、氏は次のように述べる。

「ある程度の人材流動性というのは、国の未来にとっては、良いのではないのかなと。流動性が高いということは、生産性の高い、成長性の高い産業に、人がより流れていくことですから」

 さらに出木場氏が米国と日本のイノベーションの風土の違いに触れる。
「日本では今、DX、DXと言っていますよね。これはアメリカ人にDXと言っても、彼らは何の事か分からないという顔をします。聞いたことのない言葉だと言ってね」

 出木場氏は時折、日本に帰国すると、DXという言葉で語りかけられて、戸惑ったことがあったという。
「そうか、デジタルトランスフォーメーションというのをDXと言っているのか」と納得したというが、米国ではことさらDXを言わなくとも、普段の生き方の中にそうした技術を取り込んで、前へ前へと進んでいる。普段の生活の中に、アグレッシブな技術なり、工夫を取り込んでいく営み。

「だから、新しい事がアメリカで起こるのだとよく思います」

人手不足が続く日本の生産性アップへ向けて

「日本では明らかに人が減っていくという中で、このままでは人材不足ってもう解消されない。だから、そこのコンフリクト(摩擦)は少ないと思います。他の国では、自分たちの仕事が機械に取って代わられて、なくなってしまうんじゃないかという議論はあると思うんですが、日本は人手不足がはっきりしている。ですから、もうちょっと前向きにやっていけば、この国にはチャンスがあるとすごく思っています」

 日本再生のキーワードは、『自動化』と出木場氏は改めて強調。
 今、リクルートHDの株式の時価総額は約9兆3515億円(7月上旬現在)。1位はトヨタ自動車(31兆4879億円)、2位、3位には13兆円台でソニーグループ、キーエンスがきて、4位、5位にソフトバンクグループとNTTドコモが12兆円台で続く。6位のNTT(11兆円台)に続いて、7位にリクルートHDがくる。

 人材サービスでグローバルリーダーになるという戦略を掲げる同社。世界にはアデコ(スイス)、ランスタッド(オランダ)、マンパワーグループ(米国)などの強豪もいて、テクノロジー競争も激しい。

「今の自動化はまだまだレベルが低くて、時給幾ら幾らの仕事はどうですか? と言っている程度。若い世代や女性で、こんな仕事をしてみたいという夢、あるいは年配者でも歴史が好きだから、歴史に関するこんな仕事を最後にしたいといったニーズに応えていくには、やはりもう一歩進みたいなと」

「わたしたちが仕事で関わっている人たちは2億数千万人。世界全体には80億人の人たちがいます。自分に会った仕事を探すのに困っている人たちが数多くおられるし、そうした人たちのためになるような仕事をしていきたい」

 人材サービスのグローバル企業としての高みを極めながら、日本の、特に中小企業の生産性向上に貢献したいという国内戦略。

 日本に帰ってくると、「いつもいい所だなと思います」と出木場氏。
「ご飯がおいしいし、みんながきちんと仕事をしてくれる。水道工事に来てくれと言ったら、必ず来る。アメリカなどは来るかどうかも分からない。荷物は壊れて届く。ある外国人が日本人はeverybody serious(まじめ)だと言っていましたが、観光業を見ても、国全体のサービスのレベルが高いし、日本の良さはあります」

 その国の長所、短所を見極めながら、グローバルに仕事をしていくという出木場氏の開拓の日々である。

本誌主幹 村田博文

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