2021-08-03

『モノ言う株主』にモノ言う『資格』があるのか? 早稲田大学名誉教授 上村達男

上村達男・早稲田大学名誉教授


 

日本には中長期的な企業法制を議論する場が無い



 ―― 経営は誰のためにあるのかということを含めて、企業とステークホルダーとの関係についてもっと議論が必要です。その辺の基準が曖昧なんですね。

 上村 モノ言う株主ないしパッシブ運用株主というのは、1万分の数秒単位で売買注文を繰り返す超高速取引(HFT)を繰り返している者も多いのですが、日頃は議決権のことなど一瞬も頭をよぎりません。しかし、たまたま名義書換の基準日に株主であると、株主総会招集通知が来ますので、突如議決権に目覚めて真っ当な株主であるかに振舞うのです。

 もともと人間の匂いがほぼしないファンドが超高速取引をしてしかも実質的出資者は不明、匿名というのですから、本来相手にしてはいけないのですね。固有の事業目的があるわけでもないですから、定款の事業目的などはありませんので、会社は株主のものだとか経営者は株主のために経営せよ、という洗脳があればやりたい放題ですね。

 ―― これはステークホルダーとは何か、会社は誰のためにあるかという原点を考えさせられる話ですね。

 上村 今申したような話だと、猛烈にカネを持っているファンドにはさらに集中的にカネが集まることになり、格差社会はますます進行していきます。

 もともと株式会社という制度はフランス革命の時の理念の企業版で、公衆ないし不特定多数の中間市民層が主役の企業形態と目指した制度です。中間市民層の層が厚く、ある程度豊かな中間市民層が存在することが実は民主主義の基盤を提供するという意義を有しています。今進行している超格差社会は、実は民主主義の基盤を崩壊させているのですね。これはある意味で体制の危機だと思っています。

 繰り返しますが、モノ言う株主にモノ言う資格があるのかがまず問題で、とりわけ配当などの財産権はともかく、議決権は企業社会のデモクラシー(民主主義)の問題です。ある種のモノ言う資格にデモクラシーを語る資格があるとは思えないのですね。

 こういうことを言うと、彼らが日本から逃げていったら株価が下がるという人がいるのですが、怪しい株主でも対価を払った以上は配当などの財産権を認めます。ただ、「あなたの意見は聞かない」というだけですので心配する必要はないです。

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