2021-09-03

【新型コロナ】塩野義製薬社長が語る「国産ワクチン・治療薬メーカーの役割」

手代木 功・塩野義製薬社長

「わたしどもとしては、安全で有効性の高い経口剤を皆様のお手元に届けることで、ワクチンの有用性をさらに高めていけると考えています」──。こう語るのは、総合感染症メーカーとして新型コロナウイルスの国産ワクチン・治療薬の開発を進める塩野義製薬社長の手代木功氏。開発の状況、また経済安全保障の観点から、国産ワクチン・治療薬の必要性とは──。




新型コロナ用にデザインした経口剤

 ─ 世界中で新型コロナウイルスの感染拡大が続いています。塩野義製薬はワクチンだけでなく、治療薬(抗ウイルス薬)の開発も進めていますが、この現状をどう見ていますか?

 手代木 アメリカやイギリス、イスラエルでは希望する高齢者に3回目のワクチン接種を検討する動きも出てきておりますが、現在の感染拡大には2つの要素があると思っています。

 1つは、ウイルスの変異が思ったよりも早そうだということ。

 2つ目はどの国の国民も様々な制限を受けてきたので、早く今までの生活に戻りたいという思いがより強く出てきて、飲食や旅行に出掛ける人が増え、イギリスもアメリカも“ブレークスルー感染”(ワクチン2回接種後の感染)が起きています。

 そもそも、ワクチンは感染を完全に防ぐものではありません。今回の新型コロナウイルスのワクチンも同様で、人類始まって以来の高い有効性とはいえ、必要な接種を終えても感染はゼロにはなりません。

 従って、ワクチン接種後も感染予防対策をしっかり行わなければ、感染者が増えてきてしまう。

 ただ、イギリス政府が言っているように、新規感染者があれだけ増えても、重症者ならびに死亡者の数は、昨年ほどではなく、ワクチン接種による効果は見られてきているため、なるべく日常生活に支障がないように戻していこうとしておられます。

 とはいえ、イギリスでも不安な方は不安なようで、感染して重症化したらどうするんだと賛否両論が出ているようです。

 治療薬の開発も進めているわたしどもとしては、ワクチンととともに、安全で有効性の高い経口剤を皆様のお手元にお届けすることで、ワクチンの有用性をさらに高めることができると思っています。

 ─ ワクチンと治療薬は連動することで効果を発揮すると。

 手代木 そうです。インフルエンザでは、日本でワクチンを接種される方は例年、3000万人位と言われています。つまり、7000万〜8000万人の方はポリシーを持って受けられない方や面倒なので受けないという方々です。

 インフルエンザは小さい頃から罹っている方も多いですし、若い方を中心に重篤化する人が少ないこと、また、発症してもタミフルやゾフルーザなどの治療薬もあるので流行時は、うがい・手洗いを心掛けるものの、日常生活を大きく制限するほどのものではありません。

 ただ、今回の新型コロナウイルスは「こういうサインがあったら重症化のサイン」というのが見えていないのです。

 ですから、軽症の方、無症状の方で、自宅待機の方がいつ悪くなられるかわからない。

 さらに、ワクチンも、インフルエンザのように何回か感染歴があって、その上で毎年ワクチンを打って免疫のレベルを少しずつ積み上げてきているのではなく、初めて2回接種した方でも抗体ができて、その抗体が長く続くかもしれないし、人によっては短く切れてしまうかもしれません。

 こうした中では、軽症中等症の方が医師の判断のもとで、自宅やホテルで服用できる治療薬(抗ウイルス薬)があれば、自宅などで服用いただき、ウイルスの量を減らすことで疾患をコントロールできるようになるのではないかと考えています。


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