2021-09-10

元防衛大臣・森本敏が語る「アフガニスタン情勢と日本につきつけられた教訓」




中央アジアが新しい紛争地域に



 ―― いずれにしても、米国がアフガンから徹底を決めた以上、中国やロシアなど、周辺国の動きも気になりますね。

 森本 一部で、米国がアフガンから撤退したことの背景として、覇権争いを進める中国を睨みながら、インド・太平洋戦略を強化するためだという見方をする人がいます。しかし、そんなに単純な構図にはならないと思います。

 中国にはウイグル人、ロシアにもイスラム教徒がいる。彼らがアフガンのタリバン勢力と接近して緊密になると、中国やロシアにとっても困るわけで、中・ロは盛んにタリバン側に秋波を送って自国のイスラム勢力が国内不安を作らないように、間違ってもアフガンに行って訓練を受けてくることのないようにタリバン側を牽制する努力をしています。

 ただ、タリバンにとってはアルカイダやISを抱えていて、怖い者なしなので、中国やロシアと関係を深めつつも、時には必要な援助を強要したり、欧米を牽制するための外交上のポジションを高めたりするのだろうと思います。

 このことは長期的に考えると、米国よりも中国やロシアの方が国内不安の原因をかかえることになる。また、タリバンに対する国際社会の批判を受け止めたり、テロ脅威に直面したりしてもタリバンの側に立たなくてはならないという厄介な問題を抱えることになる可能性もあると思います。

 ―― 自分たちの国でイスラム過激派の勢いが増しては困りますからね。

 森本 それと、アフガン周辺国には多くの緊張関係があります。一時、アフガン兵士が周辺のタジキスタン、ウズベキスタン、キルギスあたりに逃げ出したのを周辺諸国は受け止めたわけです。

 これはタリバンから見ると許しがたい行為ですから、中央アジアの周辺国にとっては、タリバンが統治するアフガンが周辺国の治安を乱すようなことがないのか、という緊張感が間違いなく高まっているはずです。 

 つまり、これから起こるのは、中央アジアが新しい紛争地域になり、それが広がっていくということです。

 ―― それだけは間違いないということですか。

 森本 今後厄介なのは、タリバンの勢力は10万人程度で、今は資金力も豊富ですが、この先どうなるかが分からない。これからアフガン政府を統治するとなった時に、10万の人たちが3800万人を統治することになるわけです。

 せいぜい10万人を統治するだけなら、資金は麻薬密造・密輸や寄付で何とかなるのかもしれませんが、これだけの人口を治めるということになれば、国家予算など十分にはありませんし、多くの国から資金を援助してもらわないといけない。

 統治に必要な人材も十分でなく、アフガン政府にいた人から3割くらいを採用すると言っているが、部族も経歴も考え方も異なる人が集まって作る政治指導部が効率的に機能するのかという問題もある。

 タリバンがアフガン国内をうまく統治できずに破綻国家になれば、関係国に対して、時には脅したり、ゆすったりして、資金援助を引き出してくると思います。そうなると、周辺国との関係はどうなっていくのか。テロを脅迫材料に活用するのか。今のところまだ先が見えません。これから大きな問題になってくると思います。

 そして、問題が大きくなればなるほど、米国はその責任を内外で問われることになる。米国はアフガンからまだ、手を引くことができない状況になるでしょう。

 ―― これは中国や米国政府との交渉になるんですか。

 森本 分かりませんが、中国はタリバンを援助で懐柔すると思います。それは中国にとって大きな荷物を背負うということになります。一方、中国は自分たちだけでは解決できない問題なので、急に米国に協議をしようと言い出しています。

 もっとも、米国はタリバンがアフガンの正当政府だとは認定しないと思いますし、タリバンがアフガンをどのように統治するかを確かめてからでなければ、米国が資金援助をすることは無理でしょう。


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