2021-09-14

東京海上HDが注力する「データ活用」戦略「損保とデジタルの掛け合わせで新たな事業領域を」

生田目雅史・東京海上ホールディングスグループCDO



 損保の顧客へのサービス提供のあり方も変わる可能性がある。従来は自然災害や事故など、起きた「結果」に対して保険料という形で価値を提供してきた。

 それを今後はデータを活用して、その「結果」の予知や予兆をし、それに対する備えを提供するという形で「前工程」を高度化することが考えられる。そして、その予知・予兆・備えを乗り越えたリスクに対しては従来通り保障を提供するという会社の姿を見据えている。デジタル部門だけでなく、現場を含め全社で取り組んでいく方針。

 会社の形を変えていくという時には本業である保険ビジネスに加えて、保険料以外で収益を得ていくような、新たなビジネスモデルの構築も必要になる。

「付加価値のある領域を新たにつくっていくことは、デジタルの取り組みと大いに関係してくるし、保険料ではないビジネスすら発生する可能性がある。その領域を広く探索していくのが我々デジタル部門の役割」と生田目氏。

 だが、非常に多くの領域からデータを獲得できるがゆえに、その量は膨大。どう整理し、事業に活用していくかが問われるが、必要になるのはAI(人工知能)の能力。まずはデータを集め、ディープラーニング(深層学習)でデータ間の因果関係を見出していく。

 その上で「お客様の『いざ』を支える保険会社であるために『いつも』支える。お客様の生活、経済活動の『いつも』をどうデータとして確認するか。お客様とそういう関係を構築することは大きな課題」(生田目氏)

 新たな顧客接点を築くことも重要。21年9月に、三菱UFJ銀行が開始予定のプラットフォーム上で新たな保険商品・サービスの共同開発を決めたが、これは新たな顧客接点を模索する1つの動きと言える。

 生田目氏は88年東京大学法学部卒業。日本長期信用銀行(現・新生銀行)を振り出しにドイツ証券、モルガン・スタンレー証券、ビザ・ワールドワイド・ジャパンなど金融の様々な領域を経験、冒頭の言葉のようにデータの価値を実感してきた。

 例えばビザ・ジャパン時代には顧客の購買データが、その「ライフスタイル」の変化を如実に語ることを痛感した。その経験を踏まえて「お客様が変化し始めた初期の情報に最も価値がある。その変化に迅速に対応できるだけの情報、経験、仮説構築力を持つ必要がある」(生田目氏)

 21年7月にはデータ戦略の中核会社として「東京海上ディーアール」(前・東京海上日動リスクコンサルティング)を始動させた。グループのデータサイエンティストやエンジニアの多くを集約し、他部門や海外事業会社、さらには他社とも連携しながら、データに基づいた付加価値の高い商品、サービスを生み出す役割を担う。

「通常は30年かかると思っていることが、今はデータの力を使えば5年で実現できる可能性がある。我々は30年先の世界観をどう描き、それをデジタルの力でどう引っ張ってくるかが付加価値につながる」(生田目氏)

 生田目氏はCDOとして、この幅広い領域を、どこまで探索するか、深掘りするかに日々腐心している。「AIも任務を果たしてくれるようになったが、最後は『人』の頭脳、能力、センスが問われる局面が明確にある」。やはりデジタル化を進めるのにも「人」の力が不可欠だということが言える。

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