2021-09-16

【病院連携】日本病院会会長が語る「感染者数の増減に合わせてベッド数も調整する。その柔軟性が重要」

相澤孝夫・日本病院会会長(相澤病院最高経営責任者)



新規感染者の1・6%が重症化

 ─ この重症者の定義も一般的に知られているものと違いがあると聞きます。

 相澤 重症者は重症の病床に大体平均1カ月間、入院しています。そうすると入院日数は30日です。一般的に言われているのは、新規の感染症患者さんの大体1・6%くらいが重症化すると言われています。これが「重症化率」と言われるものです。

 すると、例えば毎日平均で1000人の患者さんが新たに感染したとします。そうすると、重症者の患者さんがどれくらい出るかというと、その1・6%。つまり、16人です。16人×30日で480床が必要なベッド数だと計算できます。

 この計算を基に、新規の患者さんの発生数がフェーズ1で100人であれば、100人×1・6%× 30 で、5床で済むということにな
ります。フェーズ1の期間はそれだけのベッド数を用意しておけば良いと。もし、フェーズ2が毎日500人だとすると、500人×1・6%×30のベッドを準備すればいいというわけです。

 しかし、このようにベッド数を増やしていくと、どこかの時点で一般の重症者を診るベッドを極端に制限しなければならなくなる局面が来ます。医療崩壊が起きてしまうのです。

 そうなったときに私が言っているのは、他の県に患者さんをお願いする。あるいは災害時であれば、自分の病院で診ている感染症以外の重症の患者さんを他に移し、感染症用のベッドを空けるという都道府県ごとに連携をする必要があるということです。

 ─ 地域での連携だけでなく、都道府県をまたいだ連携も必要ですね。

 相澤 そういうことです。そういう面で見ていくことが必要です。都道府県単位で、人口10万人当たりで用意した重症者を診ることのできる既存病床数のうち、何%を感染症のために使ったかというデータを見ると、東京都や大阪府は50%を超えています。

 当然、現場はパンクしているということです。一般の重症者を診られなくなるわけですからね。それだけ一気にコロナの重症者が広まったということです。

 一方で、沖縄県は十数%です。重症者のために使える病床数の十数%が感染症の患者さんに使えるということを意味しています。ということは、もともと病床をきちんと用意しておけば、簡単には50%を超えないということです。

 したがって、東京都や大阪府は平時における重症者用のベッド数の準備が足りなかったということになります。一般病床数については分かりませんが、重症者のベッド数では明らかにそういう傾向が出てきているのです。

 もともと準備が足りないわけですから、コロナの重症者が増えれば、すぐに一般医療が圧迫されます。ですから、一般の患者さんのたらい回しが起きてしまうのです。

 ─ 平時からの事前の準備が緊急時の対応にも影響すると。

 相澤 はい。事前の準備を皆で話し合ってしっかりと決めておいて、それをしっかりと守る。そして感染症の広がり具合によって段階的にベッド数を増やしていけばいいし、減ってくれば段階的に減らしていく。再び感染者数が増えたら段階的に増やしていけばいいのです。その柔軟性こそが重要になってきます。


会員数2487病院(2021年8月時点)が加入している日本病院会(写真は同会ビルの外観)

 ─ コロナ対応もさることながら、日本の医療制度全体を考えれば、団塊の世代が後期高齢者に入ってくるなど、持続可能のある医療制度が不可欠です。

 相澤 そうですね。75歳以上の人口が増えてくるのが、2023年くらいから始まり、25年あたりがピークになると思います。75歳以上の方でも元気な方は元気です。年齢で区切るのはどうかという意見もあります。

 その人の日常生活動作や運動能力によって最良のケアが変わるなど、均一に対応するよりも分けて考えた方が効率的かもしれません。また、医療現場での働き手が減っていく問題もあります。70歳を超えても働いてもらった方が社会全体としては助かるわけです。

 ─ 企業でも60歳を超えても働く人は当たり前で、70歳を過ぎても再雇用することが流れになっています。

 相澤 65歳以降の定年延長を70歳から75歳までやった方がいいと思います。シニアの方々も働いていた方が健康を保てるようですし、年をとってくれば若い人のようにがむしゃらに働くことはできないと思いますが、1日3時間程度でも働いていただければ大変助かります。

 そういった力を活用した方がいいと思います。今の医療体制は医療も労働もお金の工面で豊かだった頃にできた制度です。昭和初期の頃の制度をずっと引きずっています。

 今は肉体労働者はほとんどいません。ほとんどが知識労働者であって、一人ひとりが経営者のように、自分の知識を皆に使ってもらうようにしています。知識は一人ひとりで違いますし、一人ひとりも強いところや弱いところがある。

 一人ひとりの労働のアウトプットも質・量共に違います。一人ひとりに応じた労働となれば、一律平均労働時間が8時間というのもおかしくなります。能力のある人が4時間で仕事を終えれば労働時間も4時間でいいわけです。その代わりに8時間働いたら倍の給料を支払う。

 あるいは、8時間の労働で給料は8割になるというケースがあっても、自分の身体は丈夫なので10時間働きますという人がいれば、10時間働いてもらえばいい。そういう制度が必要なのではないでしょうか。

 やらなければならないことは、健康管理をきちんと行い、精神的な問題が起こらないようにケアしながら、できる範囲でやると。個人差があるのは当然です。それを金太郎飴のように一律で区切ろうとするから歪みが出るのです。

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