資本主義が持つ3つの悪
―― 日本は米英型というよりは欧州型ですか。
岩井 日本はもちろん欧州型に近い。いや、近かったと言った方がよいかもしれません。
フランスのミシェル・アルベールは、1991年出版の「資本主義対資本主義」の中で、なんと日本をドイツやフランスとともにライン河資本主義と呼びました。地理的には荒唐無稽ですが。
つまり、資本主義の中でも、完全な自由放任主義を求める米英型資本主義と、欧州・日本型の修正された資本主義との対立があった。実際、80年代は米国経済がガタガタしていて、日本やドイツは強かったですよね。
ところが、90年代に入ると、日本はバブルが崩壊。ドイツ経済も統合した東ドイツが重荷になって低迷してしまいます。現在のドイツ経済の強さから見ると意外ですが、当時ドイツは負け犬だと言われていたのです。
―― それは逆に米国が息を吹き返したからでもありますね。
岩井 そうです。90年代は自由放任主義型資本主義の勝利の時代だった。IT革命や金融自由化を先導した米国は、未曽有の高成長を遂げるようになった。
だから、90年代の終わりから21世紀に入るまでは、社会主義が滅び、資本主義の中でも、修正型資本主義が落ち目になり、自由放任主義的資本主義が勝利したと思われていました。
しかし、21世紀に入ると、ITバブルがはじけ、2008年にはリーマンショックが起きた。そして、仏経済学者のピケティが『21世紀の資本』で記したように、80年代から格差が全世界的に広がったことを多くの人が認識するようになった。特に格差が拡大したのが米国です。
―― 日本でも格差の拡大は大きな問題になっています。
岩井 日本や欧州も格差問題に苦しんでいますが、米国の格差に比べたら桁が違います。米国は上位1%が全所得の2割を手にし、資産に至っては3割以上を占めるほどの格差が生じている。日本ではトップ1%が総所得の8%、ドイツは12%くらいです。これも大問題ですが、米国の格差は先進資本主義国の中で突出している。
―― つまり、自由放任資本主義というのは、一方で格差を極端に生み出すと。
岩井 さらに深刻なのは、環境問題です。そして、金融市場の不安定性の問題。バブルの膨張とその崩壊を繰り返している。つまり、格差、環境、金融危機が、資本主義が持っている3つの悪ですが、その3つの悪が、21世紀に入って、特に米国の資本主義を中心に露呈してきた。それが今の状況だと思います。