2021-10-12

【保守人員不足にどう対応?】鉄道の保守業務をDX化 東急電鉄の「鉄道版インフラドクター」

「鉄道版インフラドクター」の導入シーン(提供:首都高技術、撮影協力:朝日航洋)

深夜、終電が走り去った後、鉄道会社の保守人員が線路やホーム、トンネル、高架橋などの鉄道設備を確認・検査する鉄道保守。実はこの保守業務は人の手によって支えられている。目視や打音、計測など、これらの作業は基本的には手作業だ。そんな保守人員も人手不足の環境にある。そんな中、東急電鉄がデジタル技術を活用した大手民鉄初の取り組みを始めた。その中身とは?

1秒間に100万発のレーザー

 鉄道の安全輸送に欠かすことができない保守業務。保守の対象も線路、電気設備、車両、高架橋やトンネルなど、対象は多岐にわたる。これらの作業は基本的には手作業だ。さらに今後、現場で働く技術者の人手不足も悩みの種になる中、東急電鉄が鉄道の「保守業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)」に乗り出している。

「道路で使われている技術を鉄道でも応用することで、保守業務の効率化を図れる」─。東急電鉄鉄道事業本部工務部施設保全課の白田英明氏は語る。同社は「鉄道版インフラドクター」と呼ばれる技術を導入した。物体や地形を点の集合で把握し、そのデータをコンピュータ上で扱うことを可能にする技術だ。

 カメラやLED照明、レーザースキャナなどの機材を通常使われている鉄道保守用車に搭載。その保守用車が線路上を動きながら360度の全方位で線路周辺の構造物を計測していく。20台のLED証明がトンネル内などを照らしながら、高い解像度を誇る8台の8Kカメラと1秒間に100万発のレーザーを当てるレーザースキャナで画像データや点群データを取得する。

 インフラドクターは主に「建築限界検査」と「トンネル特別全般検査」で導入する。前者は鉄道の安全走行を維持するため、列車の揺れや線路線形などを考慮して設定した標識や建物などを設けてはならない空間を指す。要は駅のホームなどのことだ。そして後者は20年に1回実施するトンネルの詳細検査のこと。

 保守用車で得られた3D点群データや高解像度カメラの画像を活用することよって、現地まで足を運んで人が目視や打音などで行っていた検査や計測が機械計測に代替されることになる。また、データや画像の解析により、トンネル各部位の浮きや剥離などの要注意箇所を効率的に抽出することも可能だ。

 大手民鉄では初の取り組みとなるインラフドクターへの東急電鉄関係者の期待は大きい。工務部施設保全課課長補佐の武田祐一氏によれば「建築限界検査では、ホームと線路との距離を定期的に定点計測するのだが、アルミ製の巨大な定規を用いて人が直接メモリを読んでいる。これらは全て手作業で各駅のホームドアごとに実施している」

 しかし、インフラドクターを活用すれば、この人手による定点観測を機械による全面計測に転換することができる。通常、現地での定点観測は東急電鉄全線で約12カ月を要していたが、インフラドクターの導入で約2カ月へと短縮される。

 また、トンネル特別全般検査でも東急沿線にある2021年度該当箇所(13カ所・約2・9キロ)の作業が効率化される。通常は現地での近接目視による検査に約6カ月。トンネル内まで移動し、現地に足場を組み立てて高所を含めた全ての部位を検査していた。しかし、これが約2カ月に短縮でき、さらに、検査が必要な箇所をあらかじめ抽出することができるため、検査の省力化も図ることができる。

 実はこのインフラドクターの技術を持っていたのが首都高速道路。首都高も道路の老朽化が進んでいた一方で技術者不足に直面。そこで同社は17年からレーザー計測機と全方位カメラを搭載した車両を走行させるだけで各種のデータの取得を可能にしていた。これを鉄道でも使えるようにしたのが今回の鉄道版インフラドクターだ。

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