2021-10-13

【監査役・監事の役割とは?】会計学の大家・八田進二氏が語る「求められるのは職業専門家としての矜持と倫理」

八田進二・青山学院大学名誉教授(大原大学院大学教授)

はった・しんじ
1949年愛知県出身。73年慶應義塾大学経済学部卒業。82同大学大学院商学研究科博士課程修了。博士(プロフェッショナル会計学)。94年駿河台大学経済学部教授。2001年青山学院大学経営学部教授。05年1月金融庁企業会計審議会委員(内部統制部会長・監査部会長)、4月青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授。08年日本政策投資銀行社外監査役、11年理想科学工業社外監査役、12年日本航空社外監査役等を歴任。18年青山学院大学名誉教授、大原大学院大学教授。

監事・監査役は組織の番人

─ 昨今、企業組織のみならず、学校法人や社会福祉法人、医療法人といった非営利組織でも不祥事が相次いでいます。この組織の在り方について八田先生の分析から聞かせてください。

 八田 社会福祉法人も医療法人も介護や医療を提供する先にはお客様、つまり介護や医療を受ける患者様がいらっしゃいます。そして重要なことは、その背後には国民全体、あるいは国といったものが存在していることをトップは認識しなければなりません。この国家的視点というものが必要なのです。ここに応えるような健全な組織運営が達成されなければいけません。

 組織によっては、実際に補助金や交付金等の公金が投入されている場合もあります。したがって、その組織のトップには、どういった形で組織を運営しているかという説明責任が生じるわけです。その番人として「監事」という役割があります。企業で言えば、「監査役」になります。

 ─ この監事の役割が重要になるということですね。

 八田 そうです。監事は全てのステークホルダー(利害関係者)の代理という形で、組織運営に関与しなければいけません。ですから、監事にはそういった気概と覚悟を持ち、社会的な責任を履行しなければなりません。もちろん、監事に関する報酬が低いという問題は改善されなくてはなりませんが。

 ただ、昨今の社会福祉法人や医療法人の監事を見てみますと、自らの社会的な役割を分かった上で、実際に責任をもって自らの責務を履行しているかというと、心許ない状況です。その結果、いろいろな組織で不祥事が起きてしまう。さらに、問題が起きたときに「監事は何をしていたのか? 」と指摘する人も少ない。残念ながら、世の中の人は監事の存在自体をあまり認識していないのです。

 ─ これはどういった背景があるからなのでしょうか?

 八田 こんな話がありました。上場会社もそうですが、企業には監査役がいます。しかし、何か問題が起こっても、従来、監査役の責任を問う場面はほとんどありませんでした。関係者からは「監査役に責任を問うことは酷な話だ」と。つまり、「もともと監査役には期待していない」と言うのです。そのため、監査役は何もしていないということから、かつては「閑散役」と揶揄されたりもしました。

 実際、監査役になる人は社内からの生え抜きで、自分が監査役に指名されたときにはガックリすると言われています。「なぜ自分は取締役になれなかったのだろうか」と。このように監査役は無用の長物のような扱いを受けてきたのです。そのような意識を持っているわけですから、監査役になった段階で気概を失っている人が多いのです。

 ─ ガバナンス(統治)があらゆる領域で求められるようになり、監査役の責任は非常に重くなっていますね。

 八田 はい。私は学問的に監査論を専攻し、監査という行為、監査役という職務を研究し続けてきました。その結果、私が導いた答えは監査、あるいは監査役がいなければ、民主主義社会は機能しないということです。

 民主主義社会では多数決で物事が決まっていくわけですが、専門的な知識を持ち合わせていなかったり、過ちを犯す場合もあるわけです。したがって、一定の専門的知識を持った人間がその組織の運営に物を申し、駄目な場合にはブレーキ役になる。

 ですから監査役は、場合によっては憎まれ役になってしまうかもしれませんが、監査という行為をしっかり果たすことによって、初めてその組織は社会に貢献できるのです。私は監査役や監事は、そういう崇高な役割を担っていると思っています。

【ガバナンスを考える】企業と株主、そして社外役員と従業員のあるべき関係とは? 答える人 牛島信・牛島総合法律事務所代表弁護士(パート2)

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