M&Aを有効活用し成長する企業
── 数々のM&Aを手掛けてきた分林さんから見て、M&Aを上手に活用している企業はどこになりますか。
分林 成功事例として挙げるとすればオリックスさん、日本電産さん、富士フイルムホールディングスさんでしょうか。
オリックスさんは、これまで50社以上のM&Aをされていると思いますが、対象としているのは金融を中心としたサービス業がメインです。
また、日本電産会長の永守重信さんも優れたM&Aをしています。私は日本電産で講演をしたことがありますが、永守さんは講演中も「M&Aせなあかん」、「M&Aせなあかんで」とおっしゃっていました(笑)。
日本電産は70社近くM&Aをしていると思いますが、赤字状態で買っている会社も多いと聞きます。しかしそれを2年以内にほぼ黒字にされています。
── いい経営者が経営をすれば会社は変わると。
分林 そう思います。また、富士フイルムホールディングスさんは古森重隆さん(現・最高顧問)が2000年に社長に就任して以降、M&Aを活用してこられました。
私は1965年(昭和40年)、東京五輪の翌年に貨物船で米国に行きました。その時に初めてカラーフィルムを持っていったのですが、当時のカラーフィルムはほとんどが米コダック製でした。それが今やコダックは事実上倒産し、富士フイルムは成長を続けている。
これは20年間、40社近くのM&Aを手掛けてきたこと、加えてヘルスケア領域にこだわってきたからだと思います。フィルム事業自体のシェアは減っても、社名は「富士フイルム」としていることもすごいなと思いますね。
── 自社が身を置く業界を大きく外れたM&Aは成功の確率が下がると。
分林 経営者も社員も、その会社がわかりませんから。自らの業界の隣の庭まではいいけれども、離れた庭までは手を出してはいけないということだと思います。
そして、やはりグループとして事業を推進していくことが大事です。当社もM&Aの会社として複数のグループ会社を持っていますが「M&A」という軸を外してはいけないと。我々もM&Aはあくまでも経営戦略の範囲内で手掛けています。これが一番大きいことだと思います。
もう一つ、我々が持ち株会社制にする狙いは、先ほどのグループ会社の上場もそうですし、そのことを通じて経営者、経営陣を育てていきたいということもあります。
日本M&Aセンターの社内で育成しようとしても、どうしてもその看板を頼ってしまう傾向があります。まして、当社はこの3年間、年間100人以上が入社してきています。中途入社の人達は一流企業から来ていますが、みんな仕事を通じた社会貢献、一生涯を懸けた仕事したいという思いを持っています。
その延長線上に、将来は経営者になりたいという人も多い。ですから彼らの意欲を満たすためにもグループ企業と、その成長が必要です。その社長、役員を務める時にも、ホールディングス制の方が早く育つのではないかと考えています。
私や三宅(卓・日本M&Aセンター社長)の世代から、これからの5年間で次の世代を育てていくという狙いもあります。
── 海外事業はどう進めますか。
分林 アジアでも、例えばシンガポール、マレーシア、ベトナムの企業にも後継者問題が浮上してきています。我々はシンガポール、マレーシアにオフィスを置き、インドネシア、ベトナムに別会社を設立、タイにも設立する予定です。
コロナ禍以降、オンライン面談のみで成約する案件もあります。シンガポール企業には日本企業に買って欲しいというニーズがあったり、日本企業にはアジアに出たいというニーズがありますから、今後も有望です。
今、我々はすでにM&Aの件数では世界最大となっていますが、最終的には日本、アジアを中心に世界最大のM&A会社になることが私の目標です。