2023-09-22

【国土交通省】「観光公害」対策に本腰 中国人の訪日客増加を懸念

インバウンド(訪日客)需要が急回復する中、観光客が殺到して地元住民の生活や自然環境に悪影響をもたらすオーバーツーリズム(観光公害)への対策に政府が本腰を入れ始めた。中国政府が日本への団体旅行を約3年半ぶりに解禁したことで、処理水放出への影響も含めて、出遅れている中国人訪日客の回復が本格化し、問題がさらに深刻になる懸念が高まっていることも背景にある。

「観光客が集中することで生じる混乱への懸念は政府の重要課題だ」。岸田文雄首相は8月26日、訪問先の沖縄県で、今秋にもオーバーツーリズムの防止・抑制策をまとめる考えを表明。これを受け観光庁は今月6日、関係省庁の対策会議の初会合を開いた。

 観光庁はこれまでも、平日への旅行需要平準化などに取り組んできたが、「一部の観光地において、過度の混雑やマナー違反による地域住民の生活への影響、旅行者の満足度の低下への懸念が生じている」(斉藤鉄夫国土交通相)として、さらなる対策を検討する。

 訪日外国人数は、水際規制の大幅緩和や撤廃に伴い回復。7月は約232万人とコロナ禍前の8割弱水準に持ち直し、訪日消費額も順調に拡大している。

 しかし、京都市や鎌倉市などの観光地では、交通機関の混雑に加え、ゴミの路上放置や騒音、私有地への侵入といった外国人のマナー違反も深刻化している。

 懸念に拍車をかけるのが、8月10日に発表された中国の訪日団体旅行解禁だ。中国本土の訪日客は、7月はまだ31万人程度だったが、コロナ禍前には全体の約3割を占めており、今後大幅に増える可能性がある。消費拡大が期待される一方、「これで中国人が戻れば交通がパンクする」(京都市の観光業者)といった危機感は強く、観光地は複雑な思いを抱える。

 観光地以外に住む日本人も人ごとではない。ホテルなどの宿泊費は、国内外の旅行者増加や人手不足で上昇を続けている。

 第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、中国人団体客が加われば「宿泊費の高騰に拍車がかかる」と分析。「予約が取れないだけでなく、高すぎて泊まれない」と日本人が旅行断念を余儀なくされる事態を警告する。

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