2023-12-05

分断・分裂の後には、必ずや共存・共生を求める動きが【私の雑記帳】

分断、分裂が続く中で…

戦争はなくならないのか

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まったのは、昨年(2022)の2月下旬。約1年半後の今年10月、ガザ地区のイスラム過激派ハマスが突如3000発ものミサイルをイスラエル南部に撃ち込んだ。以来、双方の対立が続く。

 紀元前30世紀頃はカナンと呼ばれたこの地の歴史は古い。カナンとは聖書で『乳と蜜の流れる場所』とされる。〝ノアの洪水〟の後、神が人類救済のために選び、祝福した最初の預言者、アブラハムの子孫に与えると約束した土地がカナンだという。

 聖地エルサレムはユダヤ教、イスラム教、キリスト教の3つの宗教がそれぞれ「自分たちの聖地」と主張し続け、今日に至る。


4度の中東戦争を経て

 ディアスポラ(Diaspora、民族離散)をたどってきたユダヤ民族が、この地で独立国・イスラエルを宣言したのは1948年。

 この時、イスラム側のアラブ諸国は猛反発し、第1次中東戦争が勃発。この後、1956年に第2次中東戦争、そして1967年に第3次戦争が起きる。

 この第3次中東戦争で、イスラエルは機動的に動き、エジプトの境・シナイ半島、シリア側のゴラン高原を占領。同時にヨルダン側西岸とガザ地区を占領し、今日に至っている。

 第4次中東戦争は、第1次石油ショックも契機となって、1973年に勃発。第1次から第4次まで、10年前後に1度は戦火を交えてきた勘定。この間にも小競り合いや紛争、テロが起きているから、パレスチナの住民は「戦争と共に生きている」ことになる。


人生観が変わった!

 イスラエルで学生時代を過ごした某経済リーダーは、「人生観が変わり、死生について考えさせられた」と語る。

「テロが起きた直後でも、『今晩コンサートがあるけど、一緒に音楽を楽しまないか』と誘われたりしてね。死がいつ何時襲ってくるか分からないけれども、その瞬間、瞬間を大事にしていこうという生き方。いろいろ考えさせられましたね」

 この経済リーダーは、国とは何か、民族とは何か、そして宗教とは何かを考えさせられたと言う。

 こうした問いに、明快な答えはすぐには出てこない。それこそ永遠に続く問い掛けかもしれない。

 しかし、諦めてはおられない。分断・分裂の後には、必ずや共存・共生を求める動きが出てくる。特に、未来の主役となる子供たちの悲しい顔を見る時に、「この子たちを悲しませてはならない。笑顔になるようにしないと」という声は多い。


世界連邦運動の起こり

 大手化学、レゾナック・ホールディングス(旧昭和電工)の名誉相談役、大橋光夫さん(1936年=昭和11年生まれ)は、『世界連邦運動協会』の会長(日本)を務めておられる。

 大橋さんは、「戦争の究極は、核兵器が使われるかどうか」にあるとし、次のように語る。

「核兵器による破壊から人類を救うには、主権国家の連合体である国際連合では不十分であり、国家を超えた権威と権限のある世界連邦機構をつくろうということで、この運動が始まりました」

 世界連邦運動は、第2次世界大戦直後の1946年(昭和21年)に、『平和な世界を目指して』始められた運動である。

 先の大戦末期、国際連合(国連)創設の構想が米国を中心に持ち上がる。しかし、米国は数週間後に、広島、長崎に原爆を投下。

 大戦末期、米軍は沖縄戦で勝利するが、日本軍がまだ抵抗しているとして、「戦争を早く終わらせるために」という〝口実〟で原爆を投下。このことが関係者の心の葛藤を引き起こすことになる。


2人の博士の悩みと行動

 原爆開発に深く関わってきたアインシュタイン、オッペンハイマー両博士はこの時、〝原爆投下〟の大統領方針に同意の旨の〝サイン〟をしたといわれる。

 1945年8月6日、現実に原爆が投下された後、広島では即死した人も多く、同年12月末までに約14万人が亡くなった。その後、後遺症で亡くなった人を含めると32万人強、長崎の19万人弱を合わせると、51万8000人強の方々が原爆で亡くなっている。

 原爆投下直後の悲惨さと、その後の被爆者の苦しみを見た両博士は原爆計画から手を引く。

 その頃、「国家を超えた権威と権限を有する世界連邦機構をつくるべき」という世論が世界各地で沸き起こりつつあった。

 この世界世論に呼応して、アインシュタイン博士は積極的に運動を推進。これに英国のB・ラッセル卿、W・チャーチル氏(元首相)、日本の湯川秀樹博士(ノーベル賞受賞者)、ドイツのA・シュバイツァー博士らも同じ輪に加わった。

 こうして1946年(昭和21年)、世界連邦運動者たちが欧州のルクセンブルクに集まり、『世界連邦政府のための世界運動』を組織。それから77年に渡って運動が続けられていることに、〝人類の良心〟が根強く存在しているのだと心強さを覚える。

 大橋さんは「日本は唯一の被爆国。個別の国では力にも限界があるし、世界全体の動きを強めていかなくてはと思います」と語る。

 与野党を超えての国会議員や地方自治体の中にも賛同の輪が広がる。何より、大橋さんの「我ら地球人」という思いである。その輪がさらに広がるようにしていきたいものだ。


国と国をつなぐ鉄道技術

「日本の鉄道技術は世界に冠たるものです」と語るのは、一般社団法人運輸総合研究所会長の宿利正史さん(元国土交通省事務次官)。

 日本の鉄道技術は、明治維新以来の日本近代化に不可欠なもので、第2次世界大戦後の高度成長下で東海道新幹線が誕生(1964)。そして、今のリニア鉄道建設へと受け継がれている。その日本の鉄道技術は現在、インドでの新幹線建設に生かされている。

「大都市ムンバイとアーメダバードの500キロの高速鉄道建設です。完成時期はまだ分かりませんが、2020年代の後半だと思います」と宿利さん。日本とインドの友好が高まる提携事業である。

 鉄道は、つくった後の運行管理などソフト面での技術も大事。ハード、ソフト両面で蓄積された日本の技術は貴重。しかし、日本の鉄道網はすでに出来上がり、新しくつくる余地は少ない。そうなると今後どうなるのか?

「技術が衰える。技術者がいなくなるんです。それでは、どこで養うかというと、海外のプロジェクトで養うべきなんですよ。海外で新しくつくる鉄道は新しい技術でやりますからね」(本誌創刊70周年企画インタビュー欄参照)。

 人と人をつなぎ、国と国をつなぐプロジェクトの推進─。分断・分裂の国際社会にあって、日本の技術を生かす重要な視点の1つだと思う。

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