2024-03-08

【関西財界セミナー】「人の可能性」、「共感」をキーワードに経営の本質を追求

昨年以上の参加者が議論した「第62回関西財界セミナー」

時代の転換期にあって、経営者の意識は─。第62回目の開催となった「関西財界セミナー」。地政学リスク、金融政策、テクノロジーの進展など、企業を取り巻く環境は、コロナ前と後で大きく変わった。「賃上げ」の潮流もあるが、企業を支える「人」との関係も見つめ直すべき時期に来ている。そんな中で開催された財界セミナーは、経営者が強い危機意識を持って臨んでいることが伝わるものになった。その議論の中身は─。


「企業の役割」を捉え直す時

「地球規模・世界史的レベルでの時代変化が、私達を取り巻く経営環境に大きな転換点をもたらそうとしている」と話すのは、関西経済同友会代表幹事(三井住友銀行副会長)の角元敬治氏。

 2024年2月8日、9日の2日間、第62回目となる「関西財界セミナー」が開催された。23年からリアル開催が復活し、2年目となる今回は約580人が参加。

 テーマは「変化する時代、企業の役割~未来の視点から考える~」。コロナ禍を経た世界は、AI(人工知能)など技術の進展、地政学リスク、環境問題、人手不足、そして旧来型の資本主義経済がもたらした社会の分断といった課題を抱える。

 そのため角元氏は「私達が社会課題を解決し、繁栄を続けるためには、目先のテーマに右往左往し、その場しのぎの対処を重ねるのではなく、ありたい未来社会の姿からバックキャストして、『企業の役割』、『企業の存在意義』を根本から捉え直すことが重要」と訴える。

 また、24年に入って日経平均株価が上昇、23年から続く賃上げの機運も相まって「失われた30年」を脱し、「成長と分配の好循環」が実現する可能性が出てきている。

 関西経済連合会会長(住友電気工業会長)の松本正義氏は「今、我が国は長期の停滞から脱し、活力を取り戻すことができるかの重要な局面にある。企業には幅広いステークホルダーに対しどのような役割を果たすかが改めて問われており、我々経営者は、目先に惑わされることなく長期的な視点を持って、その課題に取り組まなければならない」と力を込める。

 今回の基調講演は、この時代背景に沿ったテーマとなった。講演者は大阪大学大学院(経済思想史)教授・総長補佐の堂目卓生氏で、演題は「目指すべき社会と経済を考える~アダム・スミスを起点として~」。

 アダム・スミス(1723―1790)は、倫理学書『道徳感情論』や経済学書『国富論』を著し、「近代経済学の父」とも呼ばれている。

 中でも『国富論』で示した「みえざる手」という概念は後世に大きな影響を与えた。市場経済で、参加者それぞれが自己利益を追求すれば、「見えざる手」に導かれて社会全体で適切な資源配分ができ、社会の繁栄と調和につながるという考え方。

 それに対し堂目氏は「個人の利己心に基づく競争社会の繁栄、『見えざる手』が働くためにはフェアでなくてはならない。フェアな競争のためには、個人の中に道徳的抑制がなくてはならない」と指摘する。

 そしてアダム・スミスが残した課題を乗り越えるには、この「競争」に参加できない人々を包摂すること、国や民族、文化、宗教を乗り越えて道徳を共有すること、分断を乗り越えて「共感」を広げられるかだとした。

 その上で、コロナ後の我々が目指すべき社会として「共助社会」と、それを支える「共感経済」を目指す必要があるとした。「売り手である企業は共助の要だが、それに見合う収益を上げられていない。社会課題に立ち向かう勇気が必要。買い手と売り手の相互共感で『失われた30年』を乗り越える時」と訴えた。

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