2024-04-29

【政界】国の土台を築き直す骨太の論戦へ 決意と覚悟が問われる岸田首相

イラスト:山田紳

自民党を揺るがし続けた派閥の政治資金規正法違反事件で、党紀委員会が関係議員らの処分を決めた。党執行部は離党勧告などの「厳しい処分」を科して事態の収束を図ったが、複雑な波紋が広がるばかり。幕引きには程遠く、後半国会も「政治とカネ」を巡る与野党攻防が激しくなりそうだ。今国会には日本の進路を左右する重要法案が提出されているものの、議論は深まっていない。支持率低迷が続く首相・岸田文雄にとって決意と覚悟をもった舵取りが必要となる。

【政界】混迷が続く「政治とカネ」問題の潮目は変わらず 信頼回復と覚悟を問われる岸田首相

広がる波紋

 首相の岸田文雄は4月4日夜、派閥の政治資金パーティーを巡る「裏金問題」で、党紀委員会が安倍派(清和政策研究会)と二階派(志帥会)の議員ら39人の処分を決定したことを受け、「国民の皆様から多くの疑念を招き、深刻な政治不信を引き起こす結果となったことは、自民党総裁として心からお詫びを申し上げる」と陳謝した。

 ただ、岸田自身は会長を務めていた岸田派(宏池会)の元会計責任者が略式起訴されたにもかかわらず、処分されていない。受け止めを記者団に問われた岸田は、個人として政治資金収支報告書の修正がなかったことや、岸田派の不記載は安倍派や二階派と内容が異なっていることなどを理由に挙げながら、「今後、私自身が先頭に立って党内のガバナンス改革に努力をしていくと共に、政治資金規正法の改正などによって再発防止、政治改革に全力で取り組むことが党総裁としての責任であると考える」と強調した。

 そして、こう続けた。「政治改革に向けた取り組みの進捗とか、取り組みぶりなどをご覧いただいた上で、最終的には国民の皆さん、党員の皆さんにご判断をいただく」

 39人の処分を巡っては党内に批判が起きた。特に処分議員が多かった安倍派の不満は根強い。事務総長経験者でも、元文部科学相・下村博文と前経済産業相・西村康稔は党員資格停止1年だったが、前国会対策委員長・高木毅が党員資格停止6カ月で、前官房長官・松野博一は役職停止1年と、処分内容が違ったからだ。「どんな事実に基づく処分なのか不透明で、基準も曖昧だ。党を分断するつもりなのだろう」といった声が聞かれた。

 さらに波紋を広げたのが、岸田の「国民に判断いただく」発言だった。批判が渦巻く中での発言は「局面打開のために6月末の衆院解散・総選挙を狙っている」「まだ9月の自民党総裁選で再選する道を探っている」といった憶測を呼んだ。「今国会で『政治とカネ』問題の再発防止策が明確に示せれば、衆院解散の環境は整う」と分析する向きもある。


遠い信頼回復

 野党側も攻勢を強めている。国民の厳しい視線が自民党に向けられているうちに衆院解散・総選挙になれば、優位に戦えるという算段が見え隠れする。「政治とカネ」問題への追及の手を緩めず、内閣不信任決議案の提出も視野に入れながら、今国会での衆院解散に追い込みたい考えだ。

「首相は個人としても、派閥のトップとしても、自民党総裁としても処分ゼロだ。そんな総裁に何も期待するものはない。だからこそ国民の皆さんと共に総理に処分を下すしかない。これが4月の衆院補欠選挙であり、次期総選挙である」。立憲民主党代表の泉健太は4月5日の記者会見で岸田を挑発し、早期の衆院解散を促した。

 国民民主党幹事長の榛葉賀津也も会見で「真相究明がされないままの処分は普通ではあり得ない。その責任を選挙で国民が判断するなんて、そんなずるい発言はない。真相を明らかにすることこそが総裁の最も重要な責任だ」と批判している。野党からは「国民に判断してもらうなら早く解散・総選挙で信を問うべきだ」との声があがる。

 岸田ら党執行部は39人の処分で「裏金問題」の幕引きを図りたかったが、問題の真相解明にはほど遠く、収束しそうにない。低迷する内閣支持率が反転する気配もなく、岸田の政権運営は難しさを増す。

 ただ、自民党内にも「岸田降ろし」を主導しようとする議員も見当たらない。「この状況で衆院解散はできっこない。最大のケジメは首相が責任を取って辞めることだ」。与党内には動揺が広がる。

 そうした中で、岸田は4月6日、熊本市で開かれた自民党の「政治刷新車座対話」に出席した。車座対話は、再発防止と信頼回復につなげるため、党幹部が全国各地の地方組織から直接意見を聞く会合で、3月下旬からスタートさせた。岸田は熊本市での会合後、こう強調した。

「信頼回復のために努力をすることと合わせて、いま国民の皆さんが期待している様々な政策や課題についても真摯に取り組み、結果を出す努力を行っていく。共に進めていくことが重要であると強く感じた」

 岸田はこれまでも「日本が直面する難局を乗り越え、我が国の未来を切り拓くための政策を1つひとつ果断に、丁寧に実行していく」「先送りできない課題に正面から愚直に挑戦し、1つひとつ答えを出していく」と主張してきた。それだけに、自身の処分を封印させ、政権運営を続けることを選んだ以上、後半国会での舵取りが注目される。

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