2024-05-21

【政界】補選全敗にも「粘り腰」の岸田首相 国のリーダーとして指導力を示す時

イラスト:山田紳

米大統領・バイデンとの連携強化を確認し、首脳会談の成果に胸を張った首相・岸田文雄。翻って日本国内では、政治資金規正法の改正を中心に、「政治とカネ」を巡る与野党の攻防が激化しつつある。政治改革の先頭に立つと訴えた岸田だが、巨額の政治資金に依存してきた自民党の体質を変えるのは容易でない。次期衆院選をにらみ、有権者の支持を引き寄せたい各党の「改革競争」はどこへ行き着くのか。国民の願いである経済再生、安全保障などの懸案解決をおろそかにすることなく、日本のあるべき将来像を描けるか。難局に立つリーダー・岸田の指導力が改めて問われる。

【政界】国の土台を築き直す骨太の論戦へ 決意と覚悟が問われる岸田首相

「国会に拍手なし」

 首相時代の安倍晋三以来、9年ぶりとなる国賓待遇での米国訪問中、二度の英語スピーチを行った岸田は、まさに「舌好調」だった。

「日本の国会では、これほどすてきな拍手を受けることはまずありません」。米連邦議会の上下両院合同会議で、冒頭のこんな「つかみ」に議員たちから笑いと拍手が起き、岸田はその後もジョークを連発した。

 ホワイトハウスで開かれた公式夕食会では、俳優のロバート・デニーロなど豪華なゲスト陣を引き合いに、「妻は『主賓が誰なのか、見分けるのは難しい』と私に言った。大統領の隣に案内された時は安心した」と、またも自虐を交えて笑いを誘った。夕食会には日本の人気音楽ユニット「YOASOBI」らも招かれており、国内のスポーツ紙に「岸田首相、つかの間の夜遊び」と見出しが踊った。

 米大統領バイデンは、中国・ロシアに対する結束を強めようと、岸田を手厚くもてなした。対北朝鮮も含め、東アジアの抑止力として日本に頼るという、改めてのメッセージでもあった。首脳会談で岸田は、防衛費増をはじめとする日本の防衛力強化に加えて、「日米はグローバル・パートナーだ」と繰り返し、従来にも増して米国に寄り添う姿勢を示した。

 むろん、台湾海峡問題などの平和的解決に向けて「中国との対話継続」も再確認したが、会談を通じてより際立ったのは日米の一体化の姿勢だった。

 日本政府関係者は、バイデン側の歓待ぶりに喜色を浮かべ、「ロシアのウクライナ侵攻や中国の軍拡を踏まえれば、もはや『バランス外交』の時代ではない」とまで言い切った。

 イスラエルのガザ地区侵攻、イランによるイスラエルへの報復攻撃など中東情勢も悪化の一途を辿っており、日本の基軸である対米外交のあり方がいっそう問われている。

 高揚とともに握手を交わした岸田とバイデンだったが、それぞれの政権の足元は何ともお寒い状況だ。

 首脳会談後に岸田が訪れたノースカロライナ州は、11月の大統領選で共和党の前大統領トランプと民主党のバイデンが接戦を展開するとみられている。岸田は、トヨタ自動車など日本からの投資が現地雇用を生み出している点を強調した。バイデンは、これを自身の政策「バイデノミクス」の恩恵だと主張し、選挙の前哨戦に利用するはずだ。

 その半面、日本側は党派に言及しないよう言葉を選び、米国経済への貢献を非常に重視するトランプに対しても、ひそかにアピールした。目の前のバイデンに気を遣いつつ、トランプの復権可能性、いわゆる「もしトラ」に備えるあいまい戦術である。気まぐれなトランプ政権が再来すれば、日米関係は再び不安定化しかねない。


深まる悪印象

 その岸田も「政治とカネ」を巡って政権の低空飛行が続いている。冒頭の「日本ではすてきな拍手を受けない」という岸田のジョークに、立憲民主党代表・泉健太は皮肉っぽく反論した。「それは自業自得だ。国民を無視し、自民党自身の腐った状態を変えられず、国会で拍手を受けるわけがない」。

 岸田の訪米中には、自民党安倍派の幹部だった塩谷立が、裏金問題で党から受けた離党勧告処分を不服として、再審査を請求した。塩谷は安倍派の集団指導体制で格上の「座長」を務めていたが、たった5カ月間の在任にもかかわらず、世間をなだめるための「いけにえ」にされたと強く反発していた。

 党はあっさり請求を却下し、塩谷は離党するしかなくなったが、「安倍派がまだ悪あがきをしている」と悪い印象を深めてしまったのは間違いない。

 裏金問題の再発防止策として、通常国会後半の最大の焦点となるのが、政治資金規正法の改正である。岸田は自民党執行部に対し、①派閥などの会計責任者だけでなく、政治家本人の責任の厳格化②外部監査の導入③デジタル化などによる政治資金の透明化─について、具体案を作成するよう指示した。「この3点をポイントに、自民党として法改正案をまとめる」と記者団に説明した。

 だが党側の考えは、党総裁の岸田と異なった。自民の法改正に向けた作業チームは「党の改革案は作らず、与党協議で自公案を作る」との姿勢を示した。裏金事件以来、いかに党内の指揮系統が混乱しているかが改めて浮き彫りになった。

 規正法の各論点に慎重姿勢が目立つ自民が独自案を作ったところで、「改革に後ろ向きだ」とまた批判される可能性が高い。一方、政治とカネの問題に敏感な支持層を抱える公明党は、いわゆる政治家本人の「連座制」の導入など、かなり踏み込んだ考え方をこの時点で示していた。

 両党の溝が露呈することを避ける意味でも、自民はうやむやのうちに与党協議を始めようとした。帰国した岸田も国会の場で「与党の議論を経ながら、改正案を取りまとめる」と軌道修正した。

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