2024-07-03

新日本科学・永田良一会長兼社長の「日本の養鰻産業を守りたい。その〝大欲〟の一心で」

「諦めたら負け。諦めは失敗を意味する。だから、やり続けることが成功につながる」─。医薬品の開発業務受託機関(CRO)で知られる新日本科学会長兼社長の永田良一氏はこう語る。同社は5月、都内で初となる試食会を開いた。その中身は人工シラスウナギを生育したウナギだ。今後は量産化に向けて沖永良部島で設備投資を始めている。なぜCROがシラスウナギの人工生産に乗り出したのか。そこには永田氏が心に秘める思想信条と夢があった。

新日本科学が都内で初の試食会 完全人工養殖ウナギの生産へ

1000匹以上の生産に成功

 ─ 永田さんは世界初となる人工シラスウナギの大量生産に取り組んでいます。5月には東京都内で初めて試食会も行いました。

 永田 はい。2014年に研究を開始し、17年にはウナギの稚魚であるシラスウナギを3匹生産することに成功しました。陸上での人工海水によるシラスウナギ生産としては世界初の快挙でした。

 その後、少しずつ生産数を増やし、23年には1000匹以上の生産に成功しています。今後は人工生産したシラスウナギを通常の養鰻で親ウナギに育てていくステージに入ります。

 ─ まだまだ改良できる余地があるということですね。

 永田 ええ。必然的にそうなっていきます。我々がすべてのシラスウナギを飼育して親ウナギにまで育てていくわけではありません。シラスウナギを人工生産できれば、あとは親ウナギにまで育てるのはそれほど難しくありません。

 現在、シラスウナギは鹿児島県の沖永良部島で生産しているのですが、加えて指宿市の「メディポリス指宿」にも設備をつくり、そこでシラスウナギを親ウナギまで飼育します。

 ─ 海で育てないのですね。

 永田 はい。沖永良部島では海水を使った飼育を行いますが、残りは通常と同じ淡水の環境で養鰻をします。おそらく普通のウナギに生育していくと考えています。試食会で使ったウナギは海で育てたので皮が厚かったのですが、淡水ではそこまでにはならないと思います。一部の方からは「シラスウナギはそのまま養鰻場に出荷すればいいのではないか」と言われましたが、それには数が足りません。

 養鰻場が必要としているシラスウナギは数十万~数百万匹の規模です。しかし、今の段階でそのような規模の生産はできません。前期実績で1000匹でしたからね。まずはこの1000匹のシラスウナギを自社で親ウナギにまで育て上げていくことにします。

 そして、これまでは海水でシラスウナギを親ウナギにまで育てていましたが、次のステージでは淡水で育てることができるかを検証します。その上で再び大規模な試食会を開き、皆様にとってどういう味がするのか、調理師が料理してどうなのか、そういったことを調べていく。それが次のステップです。

 ─ 市場流通にのせるまでにはもう少し時間がかかると。

 永田 そうですね。ただ、やるべきことは分かっています。我々がしっかりと流通にのせなければと思っています。


今後は水槽の整備が課題に

 ─ 水槽の設計は設計会社と組んで進めるのですか。

 永田 いいえ、自前でつくります。複雑で高度なノウハウが必要ですからね。幸運にも当社にはものづくりが得意で、手先の器用な社員がいますので一緒に伴走してつくります(笑)。

 ─ なぜ指宿にも研究拠点をつくるのですか。

 永田 沖永良部島だと、どうしてもすぐに手に入らない材料がありました。そこで水槽の試作品は指宿で作りますが、本格的にシラスウナギを大量生産するときには沖永良部島の施設を拡大します。それこそ水槽を何千個と設置する必要が出てきます。

 まずは今の1000匹のシラスウナギ生産能力を1万匹に拡大することが目標です。そして100万匹、さらには1000万匹にしなければなりません。そうすると、水槽も膨大な数が必要になるでしょう。ですから、水槽づくりが大きなポイントになってくるということです。

 ─ どこまで新日本科学が手掛けるのですか。

 永田 水槽の試作品は私が設計してつくりました。今後は水槽の製造業者に発注することになります。複数の複雑な部品から構成されていますので業者に発注しても、現状では作れないでしょう。ウナギの飼育に関するノウハウがありませんからね。いま我々が開発した水槽のプロトタイプが数種類あるのですが、どれが一番良いかは長期に飼育してみないと分かりません。ですから、試行錯誤でやり続けていくことになります。

 ─ 試食会の反応は。

 永田 非常に褒めていただきました。嬉しかったですね(笑)。昼食で頻繁にウナギを食べる経営者や政治家もいらしたのですが、「お世辞ぬきで、こんなに美味しいウナギ、生まれて初めて食べました」と言っていただけました。個人的には普通に食べるウナギの味とは少し違っていたかなと。ただ、脂の乗りは良かったですね。

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