2024-07-02

【政界】「退陣要求」が飛び出す中で 問われる岸田首相の経済再生への〝覚悟〟

イラスト:山田紳

デフレからの完全脱却に向けて賃上げを定着させる「骨太の方針」の原案がまとまる中、首相・岸田文雄(自民党総裁)を苦しめ続けてきた「政治とカネ」の問題は改正政治資金規正法の成立で一区切りつくのか─。国会最終盤の不手際もあり、党内からも岸田への風当たりは強まっている。内閣支持率の低迷が続き、今秋の党総裁選での再選戦略は描けていない。岸田の首相在職日数が1000日の大台に乗る6月29日を境にして、自民党内の「ポスト岸田」レースが本格化することになりそうだ。

【政界】懸案山積の中で会期末が迫る通常国会 なおも余裕を見せる岸田首相の「次の一手」

1000日の壁

「1000日までは意地でも続けるんだろうな……」。自民党派閥の裏金事件を受けた政治資金規正法改正案が衆院を通過した6月6日、党関係者はそう漏らした。

 1000日とは岸田文雄の首相在職日数のこと。岸田の在職日数は4月22日に932日となり、元首相の橋本龍太郎の記録に並び、翌日には戦後35人の首相の中で単独8位の長さとなった。このまま続けば岸田の在職日数は6月29日に1000日となる。

 在職日数の戦後最長は通算3188日の安倍晋三で、佐藤栄作(2798日)、吉田茂(2616日)、小泉純一郎(1980日)らが続く。自民党岸田派(宏池会)の関係者は「岸田首相が意識しているのは宏池会の先輩だ」と語る。

 既に宏池会出身の鈴木善幸(864日)、宮沢喜一(644日)らを抜いており、念頭には池田勇人の1575日があるとされる。そのためには、今秋の自民党総裁選で再選を果たすことが必要となる。

 岸田が橋本の記録に並んだ4月、官房長官・林芳正は記者会見で「能登半島地震への対応、政治の信頼回復、物価高に負けない賃上げ、厳しい国際情勢の対応など、先送りできない課題に取り組む毎日の積み重ねの結果だと受け止めている。引き続き政府一丸となって内外の諸課題に全力で取り組み、一つ一つ結果を出していく」と語っていた。

 だが、自民党を揺るがし続けた裏金事件で岸田内閣の支持率は低迷を続けており、2カ月が経っても逆風は収まらない。政治資金規正法改正案を成立させ、一区切りつけたとしても風向きは変わりそうになく、岸田の目指す総裁再選への道のりは険しい。

 政治資金規正法改正案の対応を巡り、岸田と自民党幹部との溝が深まった。政治資金規正法改正案は6月6日に衆院本会議で可決され、参院に送付されたが、当初は4日に衆院を通過するはずだったが、岸田と党側の足並みが揃わず二転三転し、ずれ込んでしまったからだ。


広がる不満

「今日の日程は白紙にさせてください。大変申し訳ない」。自民党国対委員長の浜田靖一は6月4日、立憲民主党国対委員長の安住淳との会談で、そう言って頭を下げた。与野党で合意していた規正法改正案の採決日程を当日になって、改正案再修正を理由に先送り要請したのだ。

 岸田は5月31日に公明党代表の山口那津男、日本維新の会代表の馬場伸幸と相次いで会談。岸田は公明党の主張するパーティー券購入者の公開基準額について「10万円超」から「5万円超」まで引き下げることを受け入れ、日本維新の会とは政党から議員個人に支給される政策活動費の10年後の領収書公開などを受け入れた。それらを踏まえて自民党案を修正し、6月23日の会期末までに成立させることで合意した。

 岸田は党首会談後、「政治資金規正法改正を今国会で実現する。こうした国民との約束を果たさなければ、政治の信頼回復はできない、こうした強い思いから思い切った、踏み込んだ決断をした」と胸を張った。

 ところが、その後、維新の会の内部で「領収書公開の対象が『50万円以上』に限られている」などとして「現在の修正案では賛成できない」と反発する声があがった。あわてた岸田政権は早期成立を確実にするため、「50万円以上」を削除する再修正に踏み切った。採決日程の先送りは、いったん党首同士で合意しものが、あっさり覆るという混乱ぶりだった。

 政治資金規正法改正案を巡って立憲民主党の失点があったばかりだった。立憲民主党は「政治資金パーティーの禁止」を柱とする独自の規正法改正案を国会提出したが、幹事長の岡田克也ら幹部らがパーティーを開催しようとしていることが発覚。

 岡田は「何かを規制すると主張したら、法律ができるまで自分たちで手を縛らないといけないという話は、普通はない」などと主張したが、開催中止に追い込まれ、党としての「本気度」が問われる局面だった。

 そうした中での迷走は、立憲民主党が息を吹き返すことにつながった。安住は6月4日、「自民党は民主党政権をぼろくそに言っていたが、さすがに民主党政権でもなかった。迷走もひどすぎる」と痛烈に皮肉った。

 しかも、野党からだけではない。そもそも岸田は、自民党副総裁の麻生太郎や幹事長・茂木敏充ら党内の反対論を押し切って公明党と日本維新の会の主張を〝丸飲み〟して改正案の修正を決断した。そのため「自民党の政治刷新本部で議論を重ね、苦労して改正案をまとめたのに、最後の最後で党総裁の首相がひっくり返した」などの不満が渦巻いていた。

 それだけに、再修正を余儀なくされたことで岸田と自民党幹部との連携不足が露呈し、党内の不満は拡大。「党首同士が合意した後の再修正は恥ずかしい」「そもそも党首合意も曖昧な合意だったのでは」など、岸田に矛先が向き始めた。

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