2024-09-19

軽自動車メーカー・スズキが投げかけた波紋「重たいクルマで道路を傷めていいのか?」

「小・少・軽・短・美」を訴える鈴木俊宏・スズキ社長

「重たいクルマを走らせることが果たして環境に良いことなのか?」─。こう投げかけるのはスズキ社長の鈴木俊宏氏だ。同社が開催した技術戦略説明会では、10年先を見据えた電動車の方向性が示された。基軸となったのは、これまで同社が磨き上げてきた「小・少・軽・短・美」の思想。そのことは、電池を積んで重たくなる電気自動車(EV)の副作用を防ぐことにもつながるという。


200~300キロ軽い!

「何百キロも走る電池を積まなければならないクルマで、会社の駐車場に8時間止めて帰る通勤のような普段使いをするのが、本当に地球環境に優しいのだろうか」─。スズキ社長の鈴木俊宏氏はこう投げかける。

 10年先を見据えた技術戦略─。軽自動車に象徴される小型車を中心に世界で年間300万台超を販売するスズキが開催した技術戦略説明会で、鈴木氏は自社の強みを生かした戦略で生き残る意気込みを示した。

「排出するCO2(二酸化炭素)が少なければ、取り返す量が少なくて済む。スズキは『小・少・軽・短・美』の理念に基づき、使うエネルギーを極少化して、排出するCO2を極限まで小さくする。これが私たちの考える技術哲学だ」

 電動化が進む自動車業界にあって、脱炭素を実現するための本命はEVと言われるが、足元ではそのEVの販売台数が失速。「EVの普及には、まだ時間がかかる」(自動車メーカー首脳)という声が多い。ホンダ社長の三部敏弘氏は「2030年が勝負どころになる」とも話す。ただ本命に間違いない。

 そんな中で、まだEVを投入できていないスズキは電動化について、エンジンの小型化と燃費性能の向上の両立を目指し、主力の日本とインドでハイブリッド車(HV)の開発を強化。小型車に対応したHVの新型エンジンを開発する。電池とモーターを組み合わせた燃費性能がさらに高い「ストロングハイブリッド」の搭載車種を広げる。

 HVはトヨタ自動車やホンダなどが傾注している。その中でスズキの強みをどう発揮するのか。鈴木氏は「移動する手段として、丁度よいサイズ、軽くて燃費がいい、安全で必要十分な装備を備えた小さなクルマをつくってきた」と話す。

 その成果として、日本、インド、欧州での業界平均の車両重量とスズキのクルマのそれとの比較でみると分かりやすい。各地域の業界平均の車両重量に対して、スズキの平均車両重量は200~300キロ軽い。重量が軽いということは、その分、材料は少なくて済む。さらに、製造時のエネルギーは約20%少なく、走行に必要なエネルギーも少なくて済む。「小さくて軽いクルマはエネルギーの極小化に大きく貢献できる」(同)。

 これはEVでも同じだ。軽量化の効果として鈴木氏は次のようにも語る。「軽いクルマは道路や埋設された水道管、ガス管などへのダメージも小さくできる」。EVの航続距離を延ばそうとすればするほど、電池を多く搭載しなければならず、電池を搭載した分だけ、車両重量は重くなる。結果、EVが普及すればするほど、エンジン車より重いクルマが増えることになり、道路などへの負荷が増す。

 スズキが行動理念に掲げる小・少・軽・短・美とは、「小さく」「少なく」「軽く」「短く」「美しく」を意味する。同社が国内で年間55万台超を販売する軽自動車(23年度のシェア首位)や小型車には、この思想が脈々と受け継がれている。

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