2024-10-04

河北医療財団理事長・河北博文「自助がなければ共助も公助もない。国民自らが責任を持つ社会への変革を」

河北博文・河北医療財団 理事長

「我が国も、もう一度原点に戻り、日本の民主主義とは何なのかを考える必要がある」─。河北氏はこう指摘する。一人ひとりが社会に責任を持つ意識が弱くなっているのではないかというのが、河北氏の問題意識。今一度、この社会をどういうものにしていくのかについて一人ひとりが考えるべき時。また、医療にも見直しが必要。診療所と総合病院の診療報酬をどうしていくか、小児科医療をどう考えるかなど、課題は多い。


戦後79年が経って改めて思うこと

 ─ 戦後79年目の夏が終わりました。今、日本は大きな転換期にあると思いますが、今思うことは?

 河北 8月6日は広島に原子爆弾が落とされた日でしたが、その日に思い浮かんだのは猪瀬直樹さんが書いた『昭和16年夏の敗戦』(中公文庫)です。改めて読み直すと、我が国の物事の考え方は、当時とあまり変わっていないなと感じます。

『昭和16年夏の敗戦』は、1940年に設置された「内閣総力戦研究所」が舞台です。30数名の若者達が、政府の持つ全ての情報を分析して出した結論と、全く違う戦争を日本は進めてしまった。ここから学ぶべきは、今我々は、根拠に基づいた決定ができているのか?ということです。

 総力戦研究所の分析では、あの時点で、すでにソビエト連邦(現ロシア)の参戦まで予測されていました。しかし、そうしたデータを一切採用せず、結果として日本人だけでも300万人を超える犠牲者を出し、敗戦にまで至ってしまったということを今の社会にどう反映するかは、とても大切なことだと思います。

 先の東京都知事選挙を見ても、今までにないような結果が出ました。国民が望んでいることと政治がやっていることにギャップがありますし、行政が力を失って政治に翻弄されていることを強く感じます。

 例えば今、米大統領選は選挙戦の真っ只中ですが、この選挙によって物事がどう動くかということを、「点」で考えるのではなく、全体を見渡すような人がいなければいけないと思います。

 ─ 全体論、本質論が語られなくなっていますね。

 河北 はい。デモクラシーというものを、もう一度しっかりと国民が考えるべき時期に来たのではないかと思います。最善のシステムではないかもしれませんが、我々があの戦争を通じてつくってきたものを見失ってはいけないと思います。

 米大統領選で問われているのは、まさにそういうことだと思います。米国の良心が、どちらを大統領に選ぶのか。

 同時に、それは日本にとっても他人事ではありません。我が国も、もう一度原点に戻り、日本の民主主義とは何なのかを考える必要があります。民主主義は国民が責任を持たなければ成り立ちません。そして、その責任を持つ個人をどう育てるかが大事なのだと思います。

 例えば「ゆとり教育」をやめ、「働き方改革」を進めていますが、このままでは日本社会は駄目になるのではないかという危機感があります。もちろん、個人の健康を社会として守ることは大切ですが、その中で個人が責任を持って踏ん張る社会にしなければいけない。働かなくていい、勉強しなくていいという社会ではないはずです。

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