2024-09-30

【政界】国益を左右する自民党総裁選 重要外交が続く秋は混迷の気配

イラスト:山田紳

過去最多の候補者が出馬した自民党総裁選が白熱している。9月27日に新総裁が決まり、10月初旬には新内閣が発足する運びだ。首相就任後、直ちに衆院解散・総選挙を行うと明言した候補もいて、派閥のパーティー収入不記載を巡る裏金事件による「派閥なき総裁選」は様々な意味で前代未聞の展開となっている。いずれにせよ、日本の経済状況の行く末への不安、人口減少といった長期的な課題、そして不穏な国際情勢を鑑みると、誰がリーダーとなっても道のりは険しい。


議員票の奪い合い

 裏金事件を受けて首相・岸田文雄が派閥の解散を宣言し、岸田派をはじめ、多くの派閥が「消滅」して初めてとなった今回の総裁選は、これまで常識だった派閥の縛りが原則なくなった。だからこそ、多くの候補者が名乗りを上げたわけだが、自由行動となった議員票の奪い合いが熾烈を極めている。

 8月下旬以降、国会議事堂近くの赤坂の飲食店では、ひっきりなしに自民党若手議員らによる会合の姿が目撃されている。ある支援グループの会合の個室の隣の部屋で、別のグループが会合をしているという光景もザラだ。会合中の議員に「誰を支援するか、もう決まっているの? まだなら私をぜひよろしくお願いします」といった支援依頼の電話が複数の候補予定者から次々とかかってくる場面も珍しくない。

 一方で、解散したはずの派閥が「復活」している気配もある。ある派閥に所属していた若手がぼやく。

「派閥の縛りがなくなったと思ったら、旧派閥の『幹部』から、『なんで○○を推さないんだ。うちはみんな○○で固まるのが原則だ』と叱られた。そんなこと言われる筋合いはないのに……」

 安倍派のある若手は、前回の2021年の総裁選は、存命だった元首相の安倍晋三から「(現経済安全保障担当相の)高市早苗を応援してくれ」と指示されたことを理由に、「他の人は推せないと支援依頼を断ることができた」と振り返る。依頼してきた相手も、安倍の指示とあっては「仕方ない」とあきらめたという。

 ところが、2年前に安倍が死去して初めてとなる今回の総裁選では、水戸黄門の印籠よろしく、「安倍の指示」のような問答無用の断る理由を見つけられず、何度も断っても複数の陣営から支援の依頼が舞い込んできた。


父そっくりの小泉

 日夜うごめく永田町界隈だが、新総裁の最有力は元環境相の小泉進次郎との見方が広まっている。

 小泉は「決着」をキーワードに6日の記者会見で正式に出馬を表明し、憲法改正の実現や選択的夫婦別姓の法案化、解雇規制の緩和などを訴え、首相に就任した場合は、直ちに衆院を解散し、総選挙に臨む考えを示した。

 小泉は、父・純一郎が首相として断行した05年の「郵政解散」を表明した際に口にした「国民の声を聞きたい」と全く同じフレーズを繰り返した。「改革」も連呼し、親子うり二つの記者会見だった。翌7日は東京のど真ん中・銀座4丁目交差点で街頭演説を実施。5000人超の聴衆を集め、早くも「ソーリー」の声が飛ぶ人気ぶりだった。

 小泉は報道各社の「次のふさわしい総裁」に関する世論調査でトップクラスを維持し、元幹事長の石破茂をしのぐ結果も出ている。中堅・若手議員を中心に幅広く支持の動きがあり、同じ神奈川県選出の前首相・菅義偉が支援していることで議員票も手堅くまとめる見通しだ。総裁選に勝利すれば、43歳での首相は、初代首相の伊藤博文の44歳よりも若く、歴代最年少となる。

 とはいえ、過去最多の立候補者数となり、議員票(367票)と党員・党友票(同)の計734票で争われる1回目の投票で過半数を占める候補は現れず、上位2人による決選投票にもつれ込むとの見方が一般的だ。その場合、小泉以外では、石破と高市のどちらかが上位2位に食い込むとみられるが、最終的に小泉が当選する可能性が高い。

 永田町では、早くも真偽不明の「小泉政権」の人事構想が飛び交う。官房長官は、衆院初当選同期の経済産業相・齋藤健との話題で持ち切りだ。今回の党幹部・閣僚人事は派閥解消後初めてとあって、慣例だった派閥の閣僚推薦がなく、前例のない形となる。若手の積極登用といった小泉流のサプライズもあるかもしれない。

 幅広い支持を集める小泉の背後にちらつくのが菅の影だ。脱派閥を掲げる菅だが、無派閥議員による「菅グループ」が形成され、総裁選でも小泉を下支えする。菅は首相退任直後から、自身の政権を支えてきた意中の官僚を小泉の下に定期的に派遣し、「帝王学」を学ばせてきた。小泉は人事で重鎮に頼らざるを得ない局面がありそうだ。小泉が勝利すれば、岸田とそりが合わなかった菅が久々に主流派として復権することにもなる。

 一方、安倍政権や岸田政権で主流派を形成した、もう1人の「キングメーカー」である副総裁の麻生太郎は今回、非主流派に陥る危機に直面している。麻生は、自ら会長を務める麻生派所属のデジタル相・河野太郎を支援すると表明したが、派としての一本化は見送った。

 実態は「見送った」のではなく、「見送らざるを得なかった」だった。裏金事件後も残る唯一の派閥として麻生は今回、まとまった行動をとる考えだった。再選に意欲を示していた岸田を支援することも選択肢の1つだったが、不出馬を表明。岸田とともに「三頭政治」を築いてきた幹事長の茂木敏充と良好な関係にはあるが、総裁選で支援を打ち出すほどの深い関係でもない。

 普通に考えれば身内の河野の一本化で収まりそうなものだが、麻生派の前幹事長・甘利明が「まな弟子」の前経済安保担当相・小林鷹之の支援に早くから動くなど、一本化はそもそも無理な話だった。麻生の側近は「(麻生)会長は〝勝ち馬〟に乗りたがっていたが、時機を逸した」と語る。

 麻生は「反岸田」で動いた菅が背後にいる小泉を支援することも嫌う。菅と共に小泉を支える元総務相の武田良太とは同じ福岡県選出で、骨肉の争いを繰り広げていることも小泉支援に回れない大きな理由の1つだ。

 麻生政権時に、農水相でありながら首相退陣を求めた石破とも関係が良くない。小泉と石破の決選投票となれば、選択肢がなくなることを懸念した麻生は告示前、各社の世論調査で3番目に人気が高い高市と極秘で接触した。支援先がバラバラの麻生派だが、高市が上位2位までに滑り込めば、決選投票では麻生派54人の「組織票」で高市に乗る可能性がある。

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