2024-10-15

【政界】政治とカネ、経済再生に安全保障……新リーダーに求められる「国の基本軸」づくり

イラスト:山田紳

自民党総裁選は元幹事長・石破茂の勝利で決着し、石破は国会で第102代の首相に選出。9人による総裁選は思惑が交錯する中で混戦を極めたが、政治資金パーティー問題で前首相・岸田文雄が退陣に追い込まれた自民党は、「ノーサイド」の精神で党の結束と国民の信頼回復を迫られている。次期衆院選と来夏の参院選という大きな関門を間近に控える中、与野党双方で態勢整備が急ピッチだ。石破政権は「人気取り」に終わらない、本格的な経済再生をはじめとする日本の将来像を示す覚悟が求められる。


3強の流転

 9月の総裁選は中盤から「3強プラス6弱」という構図が鮮明になっていた。報道各社の調査で、国会議員票と党員・党友票で、石破に加えて経済安全保障担当相の高市早苗、元環境相の小泉進次郎が優勢だと伝えられた。

 下馬評が高かった小泉の失速が永田町でささやかれたのも、この頃だ。小泉が公約の1つに掲げた「解雇規制の見直し」が、SNS上などで反発を招いたことがきっかけだった。企業が整理解雇を実施するには、①経営上の必要性②解雇回避の努力③人選の合理性④労使間での協議─の4要件を乗り越えなければならない。唐突な見直し提案は「企業が社員のクビをもっと切りやすくするため」と世論から受け止められた。

 不安定な非正規雇用者の生活苦と将来不安が社会問題化する中だけに、衆院選を控えるタイミングとしては悪手というほかなかった。小泉が「聖域なき規制改革」を掲げたことも、父・純一郎の政権時代の模倣とみなされた。小泉はあわてて軌道修正を図ったが、弱点とされてきた経験不足と、今後の与野党論戦への不安を露呈させた。

 その結果、小泉は上位グループに吸収される形で、石破、高市と三つどもえのレースを形成した。特に高市は、党員の支持での善戦ぶりにやや意外な感もあった。故・安倍晋三のバックアップで岸田を脅かした3年前の前回総裁選での印象が、地方党員たちに残っていたのかもしれない。

 だが高市もすぐに泥仕合に飲み込まれた。総裁選の告示直前、高市が自身の政策リーフレットを各地の党員らに郵送していたことが判明した。ビラの郵送費は、支持を求める電話かけ(オートコール)などと並んで総裁選にカネがかかる原因とされていた。裏金問題を受け、党の総裁選管は「カネのかからないクリーンな選挙」を打ち出しており、他陣営は「ルール違反。あれじゃあ、やった者勝ちじゃないか」と強く反発した。

 実態は不明だが、高市票の伸びはそのリーフレットが原因だとする指摘もあった。高市自身は「総裁選管が禁止事項を決める前に発送していたものだ」と反論した。この騒動を眺めた党幹部は「カネがらみでもめていたら、また党のイメージが下がってしまう」と頭を抱えた。


誰にも読めず

 一方、5回目の挑戦となる石破は、ベテランの余裕か、ある程度マイペースに選挙戦を進めた。「次の首相」を尋ねた世論調査で小泉を上回ることも多かった石破は、過去の総裁選では、安倍晋三ら主流派に対するアンチテーゼとしての存在だった。

 だが今回は半ば本命視されての出馬である。国防族議員として安全保障分野や持論の「防災省」の創設など、主張の多くを国の危機管理に割いた半面、暮らしや経済などの内政に関してはやや曖昧だった。

 残りの6陣営の議員たちは、自身がかついだ候補者の敗北を前提とせざるを得なくなった。新政権でのポスト獲得や立ち位置を計算して「上位2人の決選投票で誰につくか」が、大きな関心事になった。岸田政権を支えた麻生派、岸田派、茂木派や、迷走を続ける安倍派がどこまで塊になって勝敗を決定づけるかも注目された。

 ただ、3強のうちどの2人が決選投票に残るのか、その組み合わせ次第で、票の流れと勝者は一変しかねなかった。事前に趨勢を読めた自民党議員は一人もいない、と言っていいほどの混戦だった。後から振り返って様々な論評に材料を提供する、まさに歴史的な総裁選となったわけだ。

 自民党には、岸田から「選挙の顔」をすげ替えて刷新感を国民にアピールしようという計算が働いていた。しかしそのアキレス腱は、相変わらず「政治とカネ」の問題だった。先の通常国会で改正した政治資金規正法を上回る改革をする気があるか。元総裁の安倍を不問とするなど、「不十分」と批判の根強い裏金問題について再調査をする意思があるか。総裁候補が問われたのは、大別すると、この2つの論点である。

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