「われわれのような地域金融機関がなければ、中小・零細企業やスタートアップ企業は、もうそこで終わりとなる先も多い。彼らのために生きていきます」─広島市信用組合の山本氏はこう強調する。信用組合にあって、地銀に伍するような利益を上げ、高格付を維持する要因は「中小・零細企業のための金融機関」として預金・貸金に特化した経営を進めていること。「メガバンクや地銀と同じやり方では駄目」と山本氏。その経営哲学とは─。
地域になくてはならない金融機関として
─ 日銀が利上げを行ったことで、少しではありますが「金利のある世界」が戻ってきました。世界の金融動向も揺れ動く中ですが、今意識していることについて聞かせて下さい。
山本 メガバンクや地方銀行と同じやり方をしていては駄目だと思っています。今後、人口減少とともに、地域金融機関としてどうやって生きていくかをはっきり認識する必要があります。それができている金融機関とできていない金融機関とでは、今後の存在価値、成長が全く違ってくるのだと思います。
─ 国も企業も個人もリスクのある中でどう生きるか、本業をいかに磨くかが問われます。
山本 われわれは「ミドルリスク・ミドルリターン」の貸出をしています。中小・零細企業やスタートアップ企業など、担保などの裏付けをしっかり持っていらっしゃらない方々も含め、ある程度のリスクテイクをしています。他の金融機関がなかなか取り組んでいない分野です。
そして、私どもはバルクセール(多数の不良債権をパッケージ化して、サービサーや投資ファンドに一括して売却する手法)を活用して、収益の中で不良債権を処理してきました。
今は、地域になくてはならない、存在意義のある金融機関であるかどうかの分岐点だと思います。環境の変化が激しく、株価の大幅下落という局面もあるなど、どの金融機関も右往左往しがちで、それをどう生き抜くか、考え方によっては面白い時代だと思います。
その中で経営の軸がブレてはいけません。私達は預金・貸金の本業一筋でやっていきます。「これでいける」ということを徹底してやっていくならば、今後も業績が上がっていくというところに直結します。
─ 社内でも、それを強く訴えておられますね。
山本 そうです。こうした本業一筋の取り組みによってお客様も安心して取引をすることができますし、支店長も職員も安心して働くことができます。
今は多くの金融機関が預金・貸金以外に投資信託や保険の販売を手掛けています。環境変化でお客様への説明も大変だと思います。グラグラせずに、腰を据えてやっていくことが大事です。
私は理事長に就任して20年近くになりますが、絶対に方針は変えません。あくまでも預金貸金に集中し、金融商品には手を出しません。多くの金融機関が手数料ビジネスの話をしている中、シシンヨー(広島市信用組合の通称)は手数料のことは言わない。ですから、お客様にも安心して取引していただけるのです。
そして大事なのは「スピード」です。例えば融資は3日以内に決裁しています。こうした取り組みによって、お客様から本当に頼りにされる金融機関になってきています。「スピード」、「フットワーク」、「フェイス・トゥ・フェイス」などは他行に負けない。これは差別化につながっています。
他行の真似をして、右に行ったり左に行ったりしたら大変なことになります。そのためにはわれわれ経営陣が、自分達の存在価値、何で生きていくかを意識することが、一番大事だと思っています。