「単にビジネスの論理だけではうまくいかない。もっと安全保障に関心を持つべき」―─。日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画は、米大統領選挙も絡み、先行きが不透明な状況。また、米中対立のある中で、日本は中国との関係をどう考えるべきか。佐藤氏は「世界は日本を〝お人好し〟だと思っている。もっとシビアに戦略を考えるべき」と語る。
安全保障問題に対する意識の低さが露呈?
─ 日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画が、大統領選挙を控えた米国で政治問題となっています。日米同盟とは何なのか? 経済安全保障のあり方とは何なのか? を考えさせられる状況になっているんですが、この問題を佐藤さんはどのように受け止めていますか。
日本製鉄はどこまで米世論を納得させられるか、日米同盟も問われるUSスチール買収問題 佐藤 わたしは、この問題は日本製鉄が戦術的に失敗したと言っていいと思います。かつて「鉄は国家なり」という有名な言葉がありましたけど、やはり、大統領選挙のある年に安全保障上の懸念が出るような企業の買収を仕掛けたからには、日鉄側の事前の情報収集とロビー活動を十分に実施する必要があったと思います。
おそらくUSスチールがどういう技術を持っているかとか、今の米国の中国に対する安全保障上の懸念はどこにあるかとか、日鉄側が注意すべきポイントはいろいろあったはずです。
USスチールは単なる鉄鋼会社ではないし、国内だけで事業をやっている会社ではありません。いろいろな形で米国の安全保障に関わっていますから、彼らがどれだけ安全保障の分野にコミットしているかということに対する日鉄側の判断に甘さがあったのではないでしょうか。