2020-12-16

長期政権への足がかりを作りつつも緊張感が続く菅首相の日々

イラスト:山田紳



 菅の政権運営は堅実に見える。50年ゼロの高い評価に加え、携帯料金の引き下げも国民
的な人気の高い政策だ。

 野党は臨時国会で日本学術会議の新会員任命拒否問題を追及したが、菅内閣の支持率は底堅い。衆参予算委員会での答弁は官僚が用意したペーパーを読むことが多く、自らの考えを語る場面はほとんどなかったが、報道各社の世論調査で内閣支持率は横ばいか、微減にとどまっている。

 自民党議員は「学術会議の任命拒否問題を巡る答弁はひどいものだった。野党の質問に全く答えられず、ピントがずれた答弁を続けた。それでも支持率は下がらなかった。国民は国会中継やニュースを見ていないのかな? 」と語る。

 永田町では一時期、臨時国会が始まれば菅が答弁に窮し、支持率は降下すると見られていた。臨時国会が始まる前、自民党関係者は「臨時国会ぐらいは乗り切るだろが、21年1月からの通常国会は無理だろう。なので通常国会冒頭で衆院解散・総選挙があると見られている」と語った。

 永田町では、こうした推測を裏書きするような日程が流れた。21年1月8日に通常国会を召集し、19日に新型コロナウイルス対策費などを盛り込んだ第3次補正予算を成立させ、衆院を解散。26日に衆院選公示、2月7日に投開票を行うという。

 安倍は11月16日、東京都内で開かれた党所属議員のパーティーで、「21年、いつ選挙をやるかは菅義偉総理が決めること。私がとやかく申し上げるわけにはいかない」と断りつつ、「今の(内閣)支持率を見ると、非常に強い誘惑に駆られる。準備を怠りなくしていただきたい」と語ったことも、解散風を吹かせる要因になった。

 ただ、この日程にはかなり無理がある。衆院解散から1週間で衆院選公示というのは過去に例がない。自民党関係者は「これまでの歴史では、解散から公示まで10日間でやったのが一番短い。しかも、そのときは公示の2週間前には総務省に解散しますと、裏で通達している」と語る。

 総務省が各自治体に衆院選の準備をさせるには、最低でも2週間が必要とされる。選挙ポスターを貼る看板の作成や設置、投票用紙の印刷などに時間がかかるためだ。

 自民党関係者は「通常国会を早期に召集し、解散するという話は、解散風を吹かせるために、意図的に誰かが流したのだろう。しかし、日程的に厳しいし、1月解散はないだろう」と推測する。

遠のいた解散

 内閣支持率は底堅く自信を深める菅が狙うのは21年の東京五輪・パラリンピック後の解散だろう。

 通常国会は1月中旬から下旬に召集され、まずは3次補正を成立させ、その後、訪米してバイデン次期米大統領との首脳会談に臨む。そして、21年度予算の審議に入るという日程が有力視されている。

 自民党幹部は「菅は奇をてらわないだろう。五輪・パラリンピックを何とか開催し、終了後に衆院選を断行。その勢いで自民党総裁選に臨んで勝利し、本格政権をつくるというシナリオを描いているのではないか」と見る。

 首相官邸関係者も「内閣支持率は下がっておらず、支持率が急降下していった麻生政権の時とは状況が全く違う。麻生政権のときは、参院では野党が過半数を握っており、国会がねじれていたが、今はそういう状況もない。焦って解散する必要はない」と語る。

 ここに来て菅の思惑と政治状況にズレが生じてきたとすれば、新型コロナの感染拡大と安倍の桜を見る会の問題が再燃したことだろう。

 新型コロナの感染拡大で、政権の肝いりで始めたGo Toキャンペーンに対しては批判が出始めた。菅は感染予防と経済の両立を目指すが、これが感染拡大を招いたとの批判が急速に広がりつつある。

 安倍が急失速したのも新型コロナ対策の失敗からだった。唐突だった学校への一斉休校の要請、アベノマスク、家でくつろぐツイッター動画、定額給付金10万円を巡る迷走等々、打つ手打つ手が批判され、安倍は追い込まれていった。

 自民党関係者は「アベノマスクと、菅が言った『マスク会食』には同じ臭いがする。説得力がないという点で全く同じだ。第3波は必ず来ると言われていたのに、対応が後手に回っている点も気になる」と語る。

 安倍のときは未知のことが多く、まさに手探りの対応をせざるを得なかっただろう。菅は違う。第1波、第2波の経験を踏まえ、先手、先手を打てておかしくない。だが、またしても後手に回っている感は否めない。

 安倍の「桜を見る会」も政局に影響するだろう。捜査の進展次第では、安倍事務所関係者は年内にも政治資金規正法ないし、公職選挙法違反で起訴される可能性は否定できない。第一義的には安倍の問題で菅には関係ないが、安倍政権の官房長官として、こうした事態を見逃してきた責任は重い。

 自民党の閣僚経験者は「菅はもともと任期満了近くでの解散を考えていただろうが、コロナと桜で1月解散はできなくなったという感じなのではないか」と言う。菅にとっては地道に成果を上げ、21年晩夏か、初秋に勝負をかけるしかなさそうである。(敬称略)

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