2022-03-04

オリックス・井上亮社長が激白「我々は内部留保を無駄にためず、多くを投資に回している!」

井上亮・オリックス社長兼グループCEO

ドル高円安、米FRBの金融引き締めとガラリと金融環境は変化。その中でオリックス社長の井上亮氏は「当社はその国のローカルカレンシーで調達し、投資を進めている」と為替の変化の影響を受けにくい仕組みづくりを進める。米国、欧州、中国、アジアとグローバル展開を進める中、どうリスクに備えるか。またデジタル化も進めるが「我々の仕事はAIにはできない」として「人」が勝負だと強調する井上氏である。

FRBの金融政策をどう見るか?


 ─ コロナ禍で経済環境は不透明な状況が続きます。その中でオリックスの現状を聞きたいのですが、今の資産の状況は?

 井上 総資産が約14兆円で、そのうち3兆円がエクイティ(自己資本)、約10兆円がデット(借り入れ)です。借入は多く見えるかもしれませんが、あまり気にしていません。それ以上にキャッシュフローが大事ですから、28カ国・地域で事業が多岐にわたっていますが、全て見ています。

 ─ 28カ国・地域での事業展開ということで為替管理は煩雑なのでは?

 井上 当社は、一部ヘッジをかけるものもありますが、なるべくローカルカレンシーで調達し、ローカルカレンシーで投資をするようにしています。

 ─ 今回、FRB(米連邦準備制度理事会)は量的緩和から金利引き上げに動いていますが、影響をどう見ますか。

 井上 我々は米国で融資を行っていますから、借り換えに対応するため資金調達面では若干調整が必要です。また、金利が上がることでお客様の資金繰りが悪化する可能性もありますから、注意深く与信判断を行う必要があると考えています。

 ─ 基本的に金利が上がるというのは金融が正常化するということですが、日本はまだ遠いという声が強い。

 井上 ええ。日本の金利が上がらないと意味がないと思います。海外は元々、経済環境がよかったのですが、コロナ禍前に様々なことが起きて金利が大きく下がりました。今回の金利引き上げは、それが正常に戻ることと理解していますから、私は気にしていません。足元でユーロは変わらずマイナス金利です。

 世界中、異常な状態が続き、資金が溢れて、考えられない価格で様々な取引がなされています。これは正常とはいえません。FRBが金利引き上げを決めたことは正常化に向かうということだと思いますが、背景には政治的圧力などもあるのだと思います。

 ─ ドルと円の関係でいうと、当面はドル高・円安が続くと見ますか。

 井上 続くと思います。様々な報道を見ていると、米国政府は当面、円安に対する締め付けをしない方針のようですから。ただ、一旦締め付けを始めたら、「円安イコール悪」として円高に持っていく可能性は十分あります。

 特に米国民主党は、昔から円安を嫌ってさまざまな為替政策を実施してきました。ところが今は、コロナ禍や米中関係など様々な問題への配慮から、円安に対する締め付けに踏み出しづらい状況にあります。その状況を生かして、日本政府が上手く振る舞えればいいのですが。

 ─ 基本的には、国としての戦略が求められると。

 井上 そう思います。円安は外国人からすると投資がしやすい状況です。円安が進むと、実質的にディスカウントで買えるということになります。その後、売りたくなった時に米国政府が円高に向けて圧力をかければ、それだけで利益が出るわけですからね。

 海外投資の多くは為替差で利益が出ています。我々も海外のプライベートエクイティ投資でかなりの利益が出ましたが、要因の多くは為替でした。

 ─ コロナ禍では、資金繰りが重要でしたから現金を持っている企業は助かりました。一方で日本企業に蓄積された内部留保は約480兆円に上り、これに対する批判も出ています。

 井上 私は内部留保の額はあまり問題ではなく、再投資に回しているかどうかが大事ではないかと思います。当社には約3兆円の内部留保がありますが、多くを投資に回しており、現金をためるようなことはしていません。もちろん、グループのオリックス銀行やオリックス生命保険は別です。

 資金は再投資に回し、株主への配当もしっかり行っています。先程お話したように借り入れも多いですから、資金に余剰が出たら返済すればいいわけです。本当の意味で当社は無駄な現金を持っていませんから、アクティビストの攻撃対象にはならないと思います。

「ジョブ型人事制度」をどう考えるか?


 ─ 近年、日本でも職務を明確にして、それに見合う賃金を支払う「ジョブ型」の人事制度が議論になり、導入する企業も出てきています。井上さんはどう考えますか。

 井上 日本のジョブ型人事制度には問題があります。例えば「高度プロフェッショナル制度」においても実質的に残業制限がありますが、1カ月などの短期間毎に上限を設ける形になっているため、特定の期間に負荷が大きくなる仕事をする人にとっては却って働きづらい仕組みになっています。

 例えば経理の仕事は期末の決算などに集中的に業務負荷が大きくなるため、この期間は1カ月分の残業時間が上限を超えてしまう。年間の平均残業時間が多くなくても、それもダメなんです。

 今の日本の労働制度は、企業の勤務実態と合っていないのではないかと思います。ここが変わらないと、日本は低迷を脱却できません。

 ─ 法律と現実との間に乖離があると。

 井上 ええ。私は一律に同じ労働時間制限を設けるのではなく、制限無く柔軟に働ける職種と、制限を設ける職種を明確に分ければいいと思っています。現実に合わせたきめ細かい制度設計が必要なのだと思いますが、制度をつくる側が、企業の実態を掴めず、なかなかうまくいかないのでしょう。

 しかし、今のままでは米国や中国、東南アジアの国々に勝てるわけがありません。中国の人達を見ているとすごいなと感じます。積極的に仕事をこなし、少しでも給与が安ければ、よりいい企業に転職をしていく。彼らは非常に貪欲です。日本のジョブマーケットが限定的で多様性がないというのも大きな問題です。

 ─ 海外ではジョブ型の人事制度が主流ですが、海外拠点の人事制度はどのような形になっていますか。

 井上 報酬については、それぞれの国のルールに合わせてやっています。結果、私よりも報酬が高い人間も複数います。それは当然だと思いますし、その分査定も厳しい。きちんとKPI(重要業績評価指標)を設けて、その年の達成度合いを見て、大きく増減します。

 例えば、プロ野球でオリックス・バファローズのリーグ優勝に貢献した投手の宮城大弥選手や野手の杉本裕太郎選手などの年俸は大幅にアップしましたが、それと同じです。欧米の人材の給与体系とプロ野球選手の年俸制は同じような仕組みです。

 日本ではボーナスの変動部分については経費に落とせないわけです。そうなるとボーナスを低く抑えて退職金を増やすといった例が多くなってしまいます。「退職金をたくさんもらわないと辞めない」といった高齢の社長の話を聞くこともあります。

 ─ 税の仕組みの問題は、海外人材を日本に定着させる上でも重要な課題ですね。

 井上 例えば相続税についても、もちろん必要だとは思いますが、60%も必要かどうか。ある程度、海外諸国と共通した仕組みにしないと、富裕層はどんどん海外に移住してしまいます。

 ─ 岸田文雄首相は「新しい資本主義」、「成長と分配の好循環」を掲げています。この政策についてはどう見ますか。

 井上 まだよくわからないというのが正直なところです。元々「成長と分配」はイコールで、成長した結果、株主には配当で、社員には給与やボーナスで分配するものだと理解しています。新しいポイントが何なのか見極めていく必要がありますね。

 ─ 岸田政権では産業界に賃上げを要請していますが、利益がでなければ賃金を支払うこともできませんね。

 井上 ええ。また、日本で賃金がなかなか上がらないのは構造上の課題もあります。各企業が徐々に人事制度を変えてきていますが、基本は65歳まで雇用を保証していることです。例えば、65歳までの雇用保証をやめて、「年間の収益の2割は従業員に配布する、その代わり収益が落ちたらポジションを失う可能性がある」などという形になれば、給与を上げるためのモチベーションになるかもしれません。

 また、働きアリの理論のとおり、組織に100人いても、全員が同じように必死に働くわけではありません。必死に働いて高いパフォーマンスを上げる人間が10人だとしたら、欧米などではその10人に多く給与を支給し、90人の給与を落とすわけですが、日本はフラットになっています。これでは競争力につながりません。

AI、デジタル化にどう向き合うか


 ─ コロナ禍では、日本のデジタル化の遅れも顕在化しました。井上さんのデジタル化に対する考え方を聞かせて下さい。

 井上 AI(人工知能)については、当社では「ビッグデータ」を活用した営業ツールとしては利用価値があると考えています。例えば、あるお客様がリース物件を使用していたとします。そうすると数年後に償却が来ますから、買い替えをするわけです。

 そういった償却・買い替え時期や使用機器の傾向などのデータをAIで管理することによって、最適なタイミングでお客様の希望に合う提案をすることが可能になると思います。

 繰り返しですが、私はAIをビッグデータ活用の延長線上のものとして捉えていますから、あまりそれに頼ることはしません。

 リテール分野の仕事では有用かもしれません。顧客の好む色が青だというデータがあれば、その商品を厚く納品するといった対応策を打つことができるからです。

 一方で、あまりAIに特化するとお客様のニーズに反するような形になってしまいかねない点には注意が必要です。業態によってAI活用の適否は分かれると思います。

 お客様のニーズに応じてカスタマイズしたサービスを提供するというのがオリックスの強みですから、その強みはAI時代においてもなくしたくはありません。それはお客様のところに直接伺って話さないと実現できません。AIにはできない仕事だと考えています。

 ─ 日本の生産性を向上させるためには、日本企業の99%を占める中小企業の生産性を高めなければいけないと言われます。オリックスは事業承継なども見据えて中小企業のM&A(企業の合併・買収)にも参入していますね。

 井上 ええ。中小企業の事業承継に関するサービスをご提供する専門の部門を社内につくりました。メガバンクなども手掛けようとしていますが、彼らが提供するのは基本的にデットが中心です。それに対して我々はデットも、エクイティも、「人」も出すことができます。

 事業承継に関するご相談では、対象となる中小企業の経営者のニーズを正確に見極める必要があります。引き続き経営に関与したいのか、承継して身を引きたいのかによってもやり方が違いますし、それが企業の業績にも直結します。

 ご相談数は多く、強いニーズを感じています。

いのうえ・まこと
1952年東京都生まれ。75年中央大学法学部卒業後、オリエント・リース(現オリックス)入社。2005年執行役、06年常務、09年専務、10年取締役副社長、11年社長兼COO、14年社長兼グループCEO。

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