2022-03-25

【ビールの「敵」を次の成長戦略に】キリンHDが乳酸菌で一大攻勢

キリンホールディングスが次の成長の柱に位置付ける「プラズマ乳酸菌」を使った商品群



長崎大学と臨床研究

 キリンHDヘルスサイエンス事業部部長兼キリン中央研究所・リサーチフェローの藤原大介氏(博士)は「プラズマ乳酸菌の作用についてのヒト試験では、プラズマ乳酸菌飲用でヒトにおいて風邪・インフルエンザのリスクが低下した」と話す。

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 その効能に目を付けたのが長崎大学だ。同大学病院ではコロナ感染症患者にプラズマ乳酸菌を投与し、症状緩和効果を検証する特定臨床研究を開始。呼吸器内科講師の山本和子氏は「新型コロナは大変異を繰り返し、ワクチンのみで対応するのは困難」と指摘した上で、「体内の免疫の調節アプローチによる治療戦略が必要」と期待する。


キリンHDは医療関係者と人に元々備わっている「自然免疫」に着目した感染症対策を研究中だ(左からキリンHDの藤原氏、日本医科大学特任教授の北村義浩氏、長崎大学病院の山本氏、国立感染症研究所・エイズ研究センター長の俣野哲朗氏)

 そもそもキリンHDが乳酸菌に着目したのはなぜなのか。「40 年前に医薬事業を始め、35年以上前から免疫の研究をしてきた」と磯崎氏。その中で10年に発見したのがプラズマ乳酸菌だ。藤原氏が語る。「当時の経営陣が将来のビール市場の飽和を見越して基礎研究を始め、歴代の経営陣も継続して投資してきた」。その際、ビールを改良する過程で乳酸菌がビール醸造に欠かせない酵母の美味しさを損なうことが分かった。それが乳酸菌を研究するきっかけとなった。つまり、ビールの「敵」を研究するのが発端だったのだ。

 ビール事業以外のホテルなどの経歴が長かった磯崎氏は「技術に対するリスペクトがあった」(幹部)。磯崎氏は医薬品原料やサプリメントを手掛ける孫会社の協和発酵バイオを直接の子会社化。同社による医薬品生産受託体制を構築した。また、医薬事業では傘下の協和キリンが骨の病気の治療薬などで堅調。同社の事業利益は612億円と680億円のキリンビールに次ぐまでに成長している。

 ただ、前述したように健康関連事業自体はまだ赤字。ビール事業で収益を上げながら健康関連事業に投資するという形になる。サプリメントなどの健康食品ではサントリーHDが先んじて市場を開拓中だ。協和キリンの研究開発費も大手製薬会社に比べても小さい。肝腎のビールも健康志向が強まれば飲用を控える動きが広がり、市場自体は小さくなっていく。

 持てる資産を活用して〝健康づくり〟という新たな成長の柱を作れるかどうかが、今後のキリンHDの行方を左右する。

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