ウクライナ危機の教訓
─ その点、ウクライナの国民はロシアの侵攻に対してしっかりと反撃しています。
長島 ええ。頑張っていますね。あの敢闘精神は素晴らしいと思います。何万人も海外にいたウクライナ人が自国に帰って戦っているわけですからね。私はこのウクライナの姿から学ぶ教訓があると思っています。
1つ目は、まさか起こらないだろうという、その「まさか」が起こるということ。力による一方的な現状変更の可能性があり得るのです。2つ目は、相応の抑止力を持っていないと、相手の行動を抑止することはできないということです。
そして3つ目が、自分たちが戦わなければ、同盟協力もなければ、国際社会からの支援もないということです。最後の4つ目ですが、準備をきちんとやれば、現状をかなり改善することができるということです。
─ 抑止力を持てると。
長島 ウクライナは14年のロシア侵攻を受け、その後の8年間で国防費は倍増、そして兵力は4割増強しました。徹底的に米国や英国の軍事訓練を受け、装備も最新化しサイバー攻撃の防御能力も向上させました。ですから、今回、圧倒的な火力を誇るロシアの攻撃にも耐え抜いているのです。
電力も電波も通信回線も立派に維持し続け、いまだにゼレンスキー大統領は、いつでも世界に向かって発信できます。これは見事です。ですから、準備ができていれば対処できるのです。台湾で言えば、中国が強すぎて手も足も出ないなどと言うことにはならないのです。
─ その場合の抑止力とは何を指すのでしょうか。
長島 難しいのは、抑止力が相手側の認識によるという点です。今回のウクライナ侵攻でも米国は核を持ち、経済制裁もやると警告しましたが、ロシアの侵攻を抑止できませんでした。
ですから例えば、中国が台湾に対して武力で統一を図ろうとした場合、中国の威嚇を跳ね返すだけのもの、また中国側が自らの作戦が成功し得ないと認識するだけのものを持たなければなりません。それが抑止力です。
─ 「対GDP比2%」の防衛力で抑止力となる?
長島 2%目標は、国家の意志を示すものです。国力を示すGDPの何%を防衛分野に割り当てるのか、これが一国の防衛力を示す端的な指標です。
NATO(北大西洋条約機構)の防衛費も2%以上が目標ですし、OECD(経済協力開発機構)加盟諸国の平均も2・5%、全世界の平均が2・18%です。仮に日本が1%から2%に引き上げても決して突出するわけではありません。
しかも、ヨーロッパ諸国が相手にするのはロシアだけですが、日本の周辺にはロシアに加えて中国、北朝鮮がいます。その意味でいうと、まず政治の意志を示す。その上で、具体的に何が必要になってくるかと。本当に必要な装備や必要な技術をしっかり整える必要があります。
以下、本誌にて