2022-09-06

【財界 おすすめの本】『先生、どうか皆の前でほめないで下さい: いい子症候群の若者たち』

【先生、どうか皆の前でほめないで下さい: いい子症候群の若者たち』
金間大介著 東洋経済新報社 1650円(税込)


 本書は副題に「いい子症候群の若者たち」を掲げる。各章ではいい子症候群の症状を丹念に拾い上げエビデンスに基づく分析を重ねていく。

「目立ちたくない若者たち」、「理想はどんなときでも均等分配」、「自分で決められない若者たち」、「仲間から浮いたらどうしよう――保険に保険をかける人間関係」、「就職活動でもひたすら安定を――あこがれの職業は地方公務員」、「社会貢献に関心はあるがボランタリーにはやりたくない――頼まれたらやっても良い」、「自分の能力を肯定できず失敗への脅威が強い」と著者が独自に取得したデータや各国の比較統計を用いて論証していく。

 ところが、終盤は一転して「若者は既得権重視の大人のコピーだ」「若者が育った日本社会は協調や共助の社会ではなく同調と既得権益と集合愚の30年間であった」と大人の責任に注目する。日本人に連綿として受け継がれてきた同調主義と日本の経済停滞の真因とみなす。

 著者はいい子症候群の若者を批判し、驚愕してみても、日本がイノベーションの停滞から抜けだし、働く人々のモチベーション低下を改革することが出来ないことを承知の上で本書を著したはずである。

 本書は1991年のバブル崩壊以後、現在に至る日本の失われた30年のツケが大学生やゆとり世代と総称される「いい子症候群」に廻ってきたに過ぎないと論じる。

 だから、著者は「今の若者は覇気が無い」と切り捨てる大人に対してより厳しい。

 挑戦放棄、敗者復活への諦め、既得権信者に陥った大人たちが振りまく空気が若者に伝染しているとして、若者の現状は団塊の世代、団塊ジュニアの仕業と喝破している。

 本書は表題から推測するような、若者を嘲笑し、小馬鹿にする書物ではない。この国にアントレプレナーシップを横溢させ、同調圧力に負けずに挑戦し、雪辱し、社会の成長に繋げる大人のリーダーの出現をもたらすための日本改造計画の根幹を示す好著である。

評者・久保利 英明(日比谷パーク法律事務所代表、弁護士)

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