2022-09-07

脱炭素の理想と現実の狭間で…  『原発回帰』に踏み切る日本の課題



次世代型原発の新増設などに国民の理解は得られるか?



 中長期の原発活用策も問題含みだ。稼働を原則40年、最長60年と定めた運転期間を本格的に延長しようとすれば、原子炉等規制法の改正が必要で、国会審議が紛糾するのは必至。米国を例に「80年間の運転も可能」と指摘する専門家もいるが、規制委の更田豊志委員長は「日本は地震が多く、海外(の例)に引きずられるべきではない」とくぎを刺している。

 政府内では、安全審査にかかった時間を運転期間から除外して計算する案も浮上しているが、これでは実現しても原発の寿命はせいぜい10年弱伸びるだけ。脱炭素化の目標年次である2050年に向けて動かせる原発の数が大幅に減っていく状況は変わらない。

 このため、福島事故後の封印を解いて、次世代型原発の新増設やリプレースを推進する方針を打ち出した。対象には海外で投資が盛んな小型モジュール炉(SMR)や高速炉、高温ガス炉も挙げられているが、いずれもまだ開発途上の段階で、商業運転の時期は見通せない。中でも発電容量が小さいSMRは、電力会社の間で「実現しても採算が合わない」と不評だ。

 安倍晋三政権時代に官邸中枢にいたある元官僚は「福島事故後のエネルギー政策を大転換して本気で原発回帰を進めるなら、政権の命運を掛けるくらいの覚悟が必要。果たして岸田首相にそこまでの腹があるのか。単なる打ち上げ花火に終わらなければいいのだが」と先行きを危惧。

 次世代型原発の新増設に国民の理解は得られるか、そして、核のゴミの最終処分地も定まらないなど、多くの課題を抱えた中で、原発政策の行方はなおも不透明なままだ。

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