2023-01-18

ニッセイ基礎研究所・矢嶋康次氏の視点「政府・日銀の共同声明、10年前の約束が変わるのか?」

金融市場にとって5年に一度のイベント、日銀総裁・副総裁人事が佳境を迎える。

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 市場では新体制になってからYCC(イールドカーブ・コントロール)の修正など金融緩和の修正に動くとの見方が強かったので、2022年12月20日の決定会合で事実上の利上げが実施されると衝撃が走った。日銀は、YCCの10年物国債金利の許容変動幅を、従来の0.25%から0.5%に拡大したのだ。

 黒田総裁は、今回の措置は「利上げではない」とあくまで流動性対策と主張するが、日銀は従来、許容幅の拡大は利上げで、景気にマイナスだとの説明を繰り返してきた。

 市場は説明を鵜のみにはしない。市場は、日銀が金融正常化に動き出したと察知し、株安・円安・金利上昇で反応した。

 足元の消費者物価指数(コア)は3%程度に達している。連合が23年初めの春闘で掲げる、5%程度の賃上げが実現されてくると、日銀はさらにもう一歩、金融緩和の是正に動き出すだろうと、すでに市場は読み始めている。

 こうなると総裁・副総裁人事とともに、10年前政府と結んだ共同声明、いわゆる「アコード」の改定が行われるのかが注目される。

 そのアコードは、今からちょうど10年前、デフレ脱却に三本の矢を掲げて誕生した安倍第二次政権と、当時の日銀総裁白川氏との間で結ばれた。

 その目的は、デフレ脱却に向けて、政府と日銀が強力なタッグを組むこと。日銀はできるだけ早期に2%を実現し、政府は成長戦略で経済構造の変革を図る。そして、持続可能な財政構造を確立するというものだ。

 見直しに向けた論点として「できるだけ早期に」という部分を中長期の目標にすることが挙げられる。たとえ2%目標が達成できなくとも、ゼロ金利やYCCの副作用が大きければ、それを是正できる余地を作るといった議論がなされている。

 物価が2%を超える今の展開が続けば、アコードを改定しなくても、日銀は政策を変更することはできる。

 しかし、その改定を行う意味は大きい。なぜなら、このアコードには、デフレ脱却の旗印として、アベノミクスを象徴してきた面があるからだ。

 岸田政権が選ぶ総裁・副総裁人事には、政策の方向性にアベノミクスとの距離感が現れる。それを決定づけるようにアコードの改定が行われる可能性が出て来ている。

 22年はインフレと共に、米国の金融政策に振り回された1年だった。それが円ドルレートの激しい動きにつながり、年初115円だった為替は、10月には151円と大きく動いた。政府の円買い介入が実施されたのも24年ぶりだ。

 日本でアコードが改定されるとすれば、10年ぶりの大転換となる。

 23年は、日本の金融政策や岸田政権のアベノミクスからの大転換に、市場が敏感に反応する年になりそうだ。

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