2023-02-17

【地銀変革】しずおかFG社長・柴田久の「課題解決型企業」への転換、人材ビジネス、DX支援など非銀行業務開拓へ

柴田久・しずおかフィナンシャルグループ社長

「グループでシナジーを発揮し、1+1=2ではなく、3にも4にもなるようにしていくのが、私の仕事」─2022年10月に、しずおかフィナンシャルグループ初代社長に就いた柴田久氏はこう話す。静岡銀行を中核とするグループだが、証券やコンサルといった子会社を並列にし、地域の課題を解決する新たなサービスを生み出すことを目指している。

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何が起きてもおかしくない時代にあって

「経済環境に関しては一進一退だと見ている」と話すのは、しずおかフィナンシャルグループ社長の柴田久氏。

 この3年ほどの間に、日本及び世界はコロナ禍、ウクライナ戦争、さらには欧米の金融引き締めによる変動といった変化にさらされてきた。

 その中で、コロナ禍に関しては、感染症法上の位置づけを季節性インフルエンザ並みの5類に引き下げなど、徐々に正常化が見えてきている中、「人の流れが戻ってきた。静岡においても観光業中心に人の移動が始まっている」(柴田氏)

 一方、ウクライナ戦争の影響による原材料価格、エネルギー価格の高騰、インフレ傾向、円安による輸入品の物価上昇は静岡県内の幅広い業種に影響を与えている。

 複合的な要因が絡み合う中、「これがよくなれば経済がよくなるということではない。これから先、こういう状態が続いていくのだと思う」と柴田氏。

 今は「VUCA」の時代と言われる。Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)が同居しているということだが、「振れ幅の大きい、何が起きてもおかしくない時代に入ってきている」と危機感を見せる。

 柴田氏は頭取時代、年始に1年を占うような講演を行っていたが、「今はそうしたコメントがしづらくなっている」。確かに1年前、ロシアによるウクライナ侵攻を予測できた人はいなかった。様々なシナリオを想定して、リスクに備えることが求められている。

 そのリスクの1つが金利動向。22年12月に日本銀行が、長期金利の変動許容幅を「プラス・マイナス0.5%」とすることをサプライズ的に発表。株価、為替、金利が大きく動いた。23年4月以降は日銀総裁も交代するだけに、変化の年となる。

「コロナ禍で、中小企業を含めて債務を相当増やした。ここで金利が一気に上がったら、立ち行かなくなる企業が出てくる可能性がある」

 ただ、米国や欧州ではインフレを受けて、大幅な利上げを相次いで実施している。日本もこの影響を避けられない。

 しかも、23年4月には「異次元の金融緩和政策」を実行してきた日銀総裁の黒田東彦氏が交代する。新総裁の下での金融政策がどうなるのか、多くの関係者が注視している。

「我々としては、ある程度金利が上がっていくことも想定しながら、金利の感応度を下げるようなオペレーションをやっていく必要がある」と備える。


改正銀行法で業務範囲規制が緩和

 こうした混沌とした状況下、22年10月には、グループを再編し「しずおかフィナンシャルグループ」を設立した。

 持ち株会社であるしずおかFGがグループを監督、静岡銀行の子会社だった静銀経営コンサルティング、静銀リース、静岡キャピタル、静銀ティーエム証券、マネックスグループ(持分法適用会社)を銀行と並列の関係にした。

 静岡銀行は05年からグループ経営、連結経営の強化を進めてきた。その結果、グループ会社自体の規模も大きくなり、地方銀行の中ではグループ経営の成功事例との評価を得てきた。

 だが「この間、地域のお客さまのニーズが多様化・複雑化している。これまで我々が揃えてきた銀行、グループ会社の機能だけでは多岐にわたる課題を解決することに限界を感じるようになってきていた」(柴田氏)

 顧客が変わっていく中、静岡銀行自身も変わっていくことが求められていたのだ。そんな中、21年11月に改正銀行法が施行された。ここで新設された「認定銀行持株会社」の認可を受ければ、特定の業務を営む子会社の保有を認可ではなく届出のみで行うことが可能になる。

「持ち株会社となることで、業務範囲がさらに広げられ、可能性が広がる。非常にいいタイミングで持ち株会社化できた。これを機に、地域の課題をさらに解決できるように、メニューを増やす取り組みをグループ全体でしていかなければならないと考えている」

 今後、新たな会社、サービスを生み出していくことを目指すが、中でも今、地域からの強いニーズを感じているのが「人材」関連だという。

 今のままでは2030年には労働力が500万人不足するというデータを出す研究機関もある中、経営層から現場まで、「人」の手当てが求められている。「人材ビジネスに関しての課題に取り組むためのメニューを揃えていく必要がある」

 実際、23年2月1日には人材ビジネス、ソフトウェア開発を手掛ける企業の子会社化を発表。具体策が動き出している。

 さらに、社会のデジタル化が進展する中、地域企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援していくことも視野に入れる。DXは前述の人手不足解消のための1つの手段でもある。

 その意味で、柴田氏が持ち株会社社長として意識していることは何か?

「CEO(最高経営責任者)の立場として、グループのシナジーをどう発揮させるかが大きなテーマになる。銀行とグループ会社の間にビジネスチャンスが潜んでいる」と柴田氏。

 例えば、顧客が「資産運用をしたい」という時、それ以前は静岡銀行であれば保険商品を中心に、静銀ティーエム証券であれば投資信託や株式を提供してきたが、比重としては、どうしても銀行のサービスを中心に考えがちだった。

 今後は顧客のニーズを起点に、銀行、証券、その他のグループ会社を含め、どのサービスを提供するのが最適なのかを考えて、グループで連携していく必要がある。「その時に1+1=2という形ではなく、3にも4にもなるようにしていくのが、私の仕事だと思っている」

 これまでは銀行中心のグループ経営の中で、銀行の人材がグループ会社に出向、経営層も銀行の役員経験者が務めるなどしてきた。それを今後は、銀行に頼ることなく自ら採用したり、M&A(企業の合併・買収)などで業容や規模を拡大するといった判断を、グループ会社自らが行うことが求められるだけに、意識変革が必要。

 グループ会社の力をフル活用しながら、いかにしずおかFGの企業価値を高めるかが柴田氏に課せられた使命となる。

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