2023-08-17

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社執行役 副CSIO パートナー・伊東真史「社会課題の解決には産業構造の壁を乗り越えなければならない。〝社会実装部隊〟としてこれを支援していきたい」

伊東真史・デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社執行役 副CSIO パートナー



乗り越えられない産業構造の壁

 ─ ヘルスケアの領域でも変革が求められていると。

 伊東 はい。地域医療も病院自体の経営も厳しさを増しています。病院単体で報酬を増やしていくことは難しい。しかも、施設の老朽化などで建て替えといった設備投資もかさみ、DXにも取り組まなければならない。では、その資金は誰が工面するのか。だからこそ、我々が企業などをつなぎ合わせたい。

 もはや業界のしがらみを越えていかなければ生き残っていけない時代になっているのです。実はこのヘルスケア分野のデータはものすごい将来性を持っています。このデータを手に入れるために、民間事業者同士がM&Aを行っています。

 例えば、電子カルテのデータを持っている企業をIT企業などが買収しています。本来なら病院のDXは病院自らが乗り出すべきなのでしょうが、民間企業がプラットフォームを提供し、クラウド型の運用でデータを蓄積できる仕掛けを作り始めています。

 そうであるならば、その仕組みをシェアしていけば良い。それを地域の中で連携させていく。それなのに財源やビジョンなく、個別の病院が自らの投資判断でバラバラにDXを進めている。これではどうしても限界が出てきます。ヘルスケアの分野でも先ほど申し上げた産業構造の壁を乗り越えなければならない時代になっているのです。

 ─ そういう意味では、大きな構図を描くときですね。

 伊東 そう思います。そこで我々は「社会実装部隊」と名乗りたい。アドバイザーではなく、新たな仕掛けを社会に実装させていく部隊です。我々がそのビジネスリスクも負いますので、我々の考え方に共鳴してくれる方々と一緒に取り組んでいきたいと考えています。

 ─ リスクを取ってでも大きな絵を描こうとする理念を共有する人はいますか。

 伊東 いますね。業種の壁を越えていますし、おそらく時代の要請として企業も横の連携を行っていかないと生き残れないという思いがあるからでしょう。極端な話、「3年くらいは自分のやることに目をつぶって欲しい」と投資家や株主に理解を求める経営者も出てくると思います。

 経営者は営業利益率やキャッシュフロー、株価といった指標で投資家や株主から注文をつけられてしまいます。自分たちのやりたいことがあっても、そのようなしがらみから実行できないということであれば、むしろ株式を非公開化することも選択肢の一つではないかと思います。

 ─ そういった声もよく聞かれるようになりました。

 伊東 そのためにファンドを活用するといった手段もあります。ただ、志がなければうまくいかないでしょうし、志があったとしてもシチュエーションによっては夢で終わってしまうかもしれません。そういった決断を後押しするものはロジックではなく、エンパシーのようなものなのではないでしょうか。

 ─ トップ同士の徹底した対話、お互いの哲学をぶつけ合うことが必要になりますね。

 伊東 はい。それから社会課題の解決に向けて投資するのであれば、自社のリソースを使って社会をどのように変えたいかという強い信念が不可欠ではないかと思います。私もデロイト トーマツ グループのリーダーシップの1人として、当社にいる約1700人の能力をどのように活用すれば最も社会に還元できるかを常に考えています。


地方から社会課題を解決していく

 ─ 最後に地方の可能性についてはどう考えていますか。

 伊東 当社も前橋市と連携し、初の地域イノベーション拠点を設置しました。デジタルを手段として徹底的に活用しながら、人々のウェルビーイングの向上と地域社会の持続可能性を追求するための産官学連携によるイノベーションを推進していきます。この場合、我々の想いに共鳴してくれる首長が必要です。それは都道府県レベルでも、市区町村レベルでも必要です。

 各自治体で規模感や土地の特性など、それぞれ違います。そういった課題を解決するためにも、その出口として地方を開拓していくことは重要だと考えています。その意味では、地方を変えて、その地方での成功体験を横展開していくことも1つの解決法だと思います。

 社会課題はビジネスチャンスでもあるのです。これは成長の原資にもなるのです。

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