2023-08-18

【政界】首相は実力重視の布陣を作れるか? 岸田政権の行方を占う内閣改造

イラスト・山田紳



「国交相」争奪戦

 岸田が政権を立て直すことができるかどうかは内閣改造・自民党役員人事にかかっている。

 昨年は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を幕引きしようと人事を8月に前倒ししたのが裏目に出た。一昨年の人事は自民党総裁選の論功行賞色が濃い。つまり、岸田はこれまで、思い通りに人事を断行するチャンスがなかった。

 今回はどうか。最大の焦点は幹事長の茂木敏充だ。

 茂木は幹事長として昨年の参院選と今年の統一地方選を仕切り、副総裁の麻生太郎とともに岸田を支えている。閣僚経験も豊富で、「ポスト岸田」の有力候補なのは間違いない。

 来年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)議長国のペルー、主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)議長国のブラジルなど3カ国を7月に歴訪した際には、「総裁選を見すえて訪問先を選んだ」ともささやかれた。

 一方で、児童手当の所得制限撤廃を首相官邸とすり合わせずに打ち出すなど、スタンドプレーが目立つ。自民、公明両党執行部のコミュニケーション不足も指摘されて久しい。岸田周辺は「幹事長は交代が望ましい」と漏らす。

 後任の幹事長には財務相の鈴木俊一(麻生派)や党選対委員長の森山裕(森山派)の名前が挙がっている。元自民党参院議員会長の青木幹雄が生前、目をかけていた小渕優子(茂木派)を起用すればサプライズだが、岸田もそこまでは考えていないだろう。

 茂木は麻生と良好な関係を築き、足場固めに余念がない。茂木派単独では総裁のイスに手が届かないからだ。麻生周辺は「岸田が来年の総裁選に出るなら、麻生は岸田を支持する」と語っており、岸田が茂木を引き続き重要閣僚で処遇すれば、大きな火種にはならないとみられる。

 党内基盤の弱い岸田が主要派閥の意向にとらわれずに人事をするのは容易ではない。最大派閥の安倍派は、元首相・安倍晋三の一周忌法要までに後任の会長を決めることができず、影響力が低下しているとはいえ、岸田が安倍派を冷遇すれば、コアな保守層の支持が自民党から離れるリスクを伴う。

 東京都内の衆院小選挙区の候補者調整を巡ってぎくしゃくした自民、公明両党の現状を裏書きするように、自民党からは国土交通相ポストの「奪還」を岸田に促す声が上がっている。

 12年末の第2次安倍内閣発足時に太田昭宏が国交相に就任して以降、同相は公明党の指定席のようになってきた。これに対し、自民党には「陳情に手間がかかる」といった不満がくすぶる。

 公明党代表の山口那津男は7月18日の記者会見で「過去いくつかの閣僚を経験したが、国交相は非常に国民生活に密着した、また経済にも大きな影響を持つ重要な役割だ」と、引き続き国交相を要求していく考えを示した。公明党の閣僚枠は一つなので「効果の大きいところをお願いする」と述べたのは、山口の不退転の決意の表れだろう。

 公明党はなぜ国交相にこだわるのか。自民党関係者は「あれこれ理由をつけても、結局は選挙対策だ。建設やトラックなど業界団体とのつながりができ、票にもなる」と解説する。だとすれば、支持母体の創価学会の集票力に陰りが見える公明党が簡単には手放さないだろう。

 人事を前にした「内紛」の表面化は、20年以上にわたる自公連立政権が岐路にさしかかったことを物語っている。

 同じ18日、訪問先のカタールで記者会見した岸田は人事について「何も決めていない。内政、外交の先送りできない課題に正面から取り組み、答えを出していくために適切な時期や内容を判断する」と語った。


早くも「補正」の声

 岸田はマイナンバーカードのデータを秋までに総点検するよう関係閣僚に指示した。政府は8月上旬に中間報告と対策をまとめる。マイナンバー制度に関する国民の不安を一刻も早く解消する必要があるのは言うまでもない。

 さらに電気料金、ガス料金、ガソリン代への補助金が9月末で終了する。10月からは値上がりが予想され、政権への打撃になりかねない。

 公明党幹事長の石井啓一は7月14日の記者会見で「必要とあれば(補助金の)延長措置をとるべきだ」と表明し、自民党参院幹事長の世耕弘成も18日の会見で「必要があればちゅうちょなく補正予算を作る。その前に予備費で迅速に対応する。二段構えで国民に寄り添った物価高対策を打っていくべきだ」と述べた。

 税収増を踏まえ、自民党内の積極財政派は早速、物価高対策を盛り込んだ補正予算案の編成を求めている。政府は24年度予算の概算要求で、少子化対策や物価高対策の予算については金額を示さない「事項要求」を認める方針で、与党から歳出拡大圧力が強まりそうだ。「経済再生と財政健全化の両立に努める」としてきた岸田の覚悟が問われる。

 年末にかけて政治課題は山積している。それを的確にさばく政府・与党の態勢をどう組むか。次の人事は、岸田にとって政権の浮沈にかかわる重要な意味を持つ。(敬称略)

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事