2024-01-08

【政界】「派閥とカネ」問題で問われる自浄能力 指導力の発揮が試される岸田首相

イラスト・山田紳

「防衛力の抜本的強化」や「次元の異なる少子化対策」など国家的な課題が山積する中、またしても「政治とカネ」「派閥とカネ」の問題が自民党を揺るがしている。国民の政治不信は頂点に達し、岸田政権の政治運営に赤信号が灯る。かといって野党に対する国民の失望も重なる。2024年はグローバル世界も先行き不透明で、企業や国民も必死に生き抜かねばならないときだけに、政治への怒りは強い。

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「裏金」疑惑が直撃

 自民党内に衝撃が走っている。党内の各派閥が例年開催している政治資金を集めるパーティーを巡り、収入を政治資金収支報告書に適切に記載していなかったとして、大学教授が告発したのだ。

 政治資金規正法は政治活動が国民の不断の監視の下に行われるようにするため、政治資金に関する収支の公開と授受の規正を定めている。パーティー券については20万円を超えて購入した購入者・団体の名前や金額を収支報告書に記載しないといけない。

 告発は購入者が支出を報告しているのに派閥側には収入の記載がないケースがあったとしている。2018年から21年までの収支報告書で総額約4000万円にのぼるとされる。

 その内訳は、最大派閥の清和政策研究会(安倍派)が約1900万円だったほか、志帥会(二階派)約900万円▽平成研究会(茂木派)約600万円▽志公会(麻生派)約400万円▽宏池会(岸田派)約200万円─という。不適切な記載が常態化していたと受け止められても仕方ない。

 自民党幹事長の茂木敏充はこうした状況を受け、それぞれの派閥の責任者に対し「収支報告書を適切に訂正すること。そして必要があれば説明し、再発防止に努めるように」と指示した。各派閥は相次いで報告書を訂正するなどの対応に追われた。

 だが、それだけでは終わらなかった。安倍派が所属議員に課したパーティー券の販売ノルマを超えた分の収入を議員側にキックバックしていた疑惑が浮上した。収支報告書に記載されない「裏金」とされる。総額は約1億円に達するとみられ、東京地検特捜部は政治資金規正法違反(不記載・虚偽記載)容疑で調べているという。

 自民党総裁で首相の岸田文雄は12月4日の党役員会で「政策グループ(派閥)の活動について、国民に疑念が持たれるとすれば遺憾であり、状況を把握しながら党としても対応を考えていく」と発言。茂木も役員会後の記者会見で「概要が把握できて問題点も明らかになってくれば、党として対応し、再発防止を図る取り組みを進めたい」と語った。


分裂する野党

 自民党総務会長で近未来政治研究会(森山派)会長の森山裕は11月30日、岸田、茂木、副総裁の麻生太郎らと党本部で会談した後、派閥会合でこう語っていた。

「今後も色々な動きが続くと思う。今は自民党、岸田政権にとって極めて大事な時だ。一致団結して政権をしっかり支え、自民党の将来を間違いのない方向に持っていくことが大事だ」

 岸田政権は物価高への対応で後手を踏み、政権浮揚の「切り札」として打ち出した所得税・住民税の定額減税も空振りに終わった。さらに、3人の副大臣・政務官の「辞任ドミノ」も起きた。森山の言葉通り、今度は「政治とカネ」の問題が自民党を直撃した。岸田にとって「弱り目に祟り目だ。政権運営に大きな痛手だ」(党中堅)といえる。

 野党にとっては格好の「敵失」といえる。それにもかかわらず、岸田政権を厳しく追及し、追い込むだけの勢いはみられない。逆に野党間の足並みの乱れが露呈した。

 立憲民主党などの野党は23年度補正予算案の国会審議で、自民党各派閥のパーティー券問題を巡り「毎年毎年、一定額が不記載になっている。組織的継続的と言わずして何と言うのか」などとただした。

 それに対し、岸田は「報告を受けている範囲で『裏金』はなかった」といった答弁を繰り返し、議論が深まることはなかった。野党側の決定打を欠く、追及の甘さがあったといえる。

 その結果、審議は混乱もなく淡々と進み、物価高対策を柱とした総額13兆円超の23年度補正予算は11月29日に成立した。採決では立憲民主党や共産党は反対したものの、日本維新の会と国民民主党は賛成に回り、野党が一枚岩でないことが鮮明になった。

 日本維新の会は熱心に取り組む25年大阪・関西万博の会場建設費の一部が補正予算に盛り込まれていることから最終的に賛成に回った。国民民主党はガソリン税の一部を軽減する「トリガー条項」の凍結解除を与党と協議することを取り付けたためだった。

 立憲民主党代表の泉健太は補正予算成立を受けて「万博、トリガーという弱みを握られて、予算に対し明確な意思表示ができなかった。大変残念だ」と語り、日本維新の会と国民民主党を牽制した。

 さらに、岸田政権と対峙すべき野党勢力の溝が浮き彫りになる中で、国民民主党代表代行の前原誠司が党の方針に反発して離党届を提出した。そして、新党「教育無償化を実現する会」を結成することを表明。「非自民・非共産」勢力を結集させ、政権交代につなげる考えを明らかにした。

 しかし、「前原新党」は同じ教育無償化を訴えてきた日本維新の会への合流を見据えた動きとされている。実際、前原は日本維新の会と事前に協議を重ねていたという。

 国民民主党幹部は「仲間よりも他党と相談する。信念のない自分の就職活動だ」と批判した。今後、代表の玉木雄一郎らが自民党との連携を加速させるきっかけになりかねず、「前原新党は野党再編の起爆剤にはなりえない」との見方が支配的になっている。

 野党勢力が分裂し、小政党化してしまっては、自民党との対立軸はぼやけてしまう。再結集が実現しなければ、政権交代などは絵に描いた餅に過ぎない。自民党が立ちすくむ中で永田町全体に閉塞感が漂っており、国民の政治不信が強まっていくことになる。

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