2024-02-21

小川啓之・コマツ社長 「世界市場は欧州や中国が低迷だが米国は堅調。市場を良く見て対応していく」

小川啓之・コマツ社長



重要性が増す生産拠点のアジア

 ─ 社長就任から5年が経ちました。その間、グローバル経営で心してきたこととは。

 小川 中計で掲げる成長戦略3本柱「イノベーションによる成長の加速」「稼ぐ力の最大化」「レジリエントな企業体質の構築」を進めています。

 収益体質の強化には、「価格改善」「構造改革による固定費の改善」「成長戦略」のグローバル展開が重要です。コマツの場合は、マトリックス組織を組んでおり、横軸に地域、縦軸に機能を置き、グローバル戦略は本社の機能別組織が策定し、各地域はその実行に責任を持って当たっています。

 日本の本社が各地域に方針をしっかりと伝えて、それをベースに地域ごとの中計にブレークダウンして活動していくのです。ですから、地域とのコミュニケーションが非常に重要になります。

 ─ コミュニケーションにおける工夫はありますか。

 小川 年に1回、主管者会議を行っています。石川県にあるコマツの研修センタに世界中の主管者、つまりは地域のトップを務める主要な管理者を集めるのです。3日間、研修センタで日本側からは経営方針を表明し、各地域側からは中計による重点活動の進捗等を発表しています。

 ─ 中計の成長戦略とは、どのようなものになりますか。

 小川 「ソリューション」と「プロダクト」の2軸でレベルを上げていくことです。

 例えば、ソリューションは「スマートコンストラクション」のように、建設生産プロセスのあらゆるデータをICTで有機的につなぐことで、測量から検査まで現場の全てを「見える化」し、お客様の施工を最適化するようなプラットフォームを開発しています。

 一方でプロダクトは自動化、遠隔操作化、自律化や電動化です。こういった領域で付加価値を高めていく。この両軸でビジネスを動かしていこうということが我々の成長戦略の最も重要なところになります。

 ─ その中で新興国の成長をどう取り込んでいきますか。

 小川 中計でも我々にとっての成長市場はインドを含むアジアとアフリカです。これらの地域は今後も成長していく主流になると位置付けています。

 ─ 市場としての日本はどう捉えているのですか。

 小川 残念ながら日本は労働人口がどんどん減っていき、大きな成長は難しいですし、コスト競争力もありません。鋼材価格も21年比で今は約1.6倍です。日本は資源がない国なので、外から買ってくるしかありませんが、今は円安ですからさらに厳しくなっています。

 当社は海外が売上高の90%を占める会社ですから、やはりコストの一番安いところで生産するというのが重要になります。

 コスト競争力やソーシングの条件を考えると、やはりアジアは重要な拠点となります。また、成長戦略において、アフリカも重点地域と考えています。

 将来、市場としてアフリカが大きくジャンプアップするのは間違いありません。ただ、インフラやサプライヤーの体制づくりといった課題もあるので、アフリカに生産拠点をつくるのは、まだまだ時間がかかります。


「2ラインモデル戦略」で東南アジア市場を攻略へ

 ─ アジアの中でも中央アジアに可能性はありますか。

 小川 ロシアのウクライナ侵攻により、現在ロシアの生産法人では生産を休止しており、日本からロシアへの機械や部品の輸出も停止しています。もともとロシアは800億~1000億円の売上高の市場でしたが、今はほぼゼロになっています。

 そういう中で、我々が注目しているのがCIS諸国です。特にカザフスタンには注目しています。昨年8月に「コマツセントラルアジア」というマーケティング会社を設立し、CIS諸国への販売を強化しています。

 カザフスタンは資源国で需要も大体5000台です。ロシアへの輸出が減った分、カザフスタンなどのCIS諸国の方に少し視点を動かしています。

 このCIS諸国向けの製品については中国で生産したものを輸出しようと。なぜなら中国から陸送することができるからです。中国はまだまだコスト競争力が高く、圧倒的に材料が安い。電力料金も鋼材価格、石炭価格もそうです。

 先ほど申し上げたように、今は中国市場の需要が落ち込んでおり、圧倒的に生産能力が過剰になっています。我々は、その余剰分を「グローバルクロスソーシング」で活用しています。

 ─ 世界中に拠点があるからこそ展開できる戦略ですね。

 小川 そうですね。中国の建機メーカーも生産能力の余剰があり、需要が落ち込んでいる中国国内ではなく、ロシアやアジアにどんどん輸出して影響力を強めています。

 もちろん我々も手を打っており、例えば、20トンクラスの油圧ショベルについては、従来のハイエンドのお客様向けの機械に加え、「2ラインモデル戦略」として都市土木などの軽負荷作業で使われるミドルエンドのお客様向けに新しい機械を開発し、インドネシアなどの東南アジアで展開しています。

 インドネシアでは3~4ポイントのシェアを高めることができました。現在20カ国以上に同機種を導入しており、今後も導入拡大していこうと思っています。

(次回に続く)

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