2024-03-13

堀江正博・東急社長「渋谷をクリエイティビティな街にするためにも、まずは我々がクリエイティブになることが大事」

堀江正博・東急社長

コロナ禍で乗客が激減し、オフィスへの出社も減った。東急東横線などの鉄道を展開し、渋谷で複数の大型複合ビルを開発・運営している東急。新社長の堀江氏は「攻めに転じる時期にきている」と強調する。鉄道では相模鉄道と相互直通運転を開始し、新横浜駅で東海道新幹線にもアクセス可能となった。また、渋谷では再開発の第一段階の総仕上げの局面を迎えている。堀江氏が見据える東急沿線と渋谷の将来の姿とは?

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コロナ禍の4年は苦しかったこれからは攻めに転じる!

 ─ まずはコロナ禍の約4年間の総括を聞かせてください。

 堀江 このコロナ禍の4年間は非常に経営のかじ取りが難しかった時期だと思います。前任の髙橋和夫社長(現副会長)は相当ご苦労されたのだろうなと。私も経営陣の一員として側にいましたので、そう感じました。

 コロナ禍の間、私はリテール(小売り)や不動産の運用を担当していました。そして途中からホテルも管掌することになったのですが、その中でやるべきことは、その環境の中でやってきたつもりです。

 ─ そういった中での社長就任となりましたね。

 堀江 ええ。ですから、渋谷再開発を含めて、私のこれまでの経験を生かして、これからは攻めに転じていく。既にもう攻め込んでいるという認識ではありますが、そういうタイミングにきていると思います。

 今の外部環境は非常に不透明です。金融の超緩和状態が正常化して、金利が生じる世界にシフトする。為替も円安基調が続いています。アベノミクスがスタートし、多少は紆余曲折があったとは思いますが、基本的には右肩上がりでした。

 ですから、今は大きく局面が変わるタイミングにあると思っていますし、中にはリスクがはらんでいるところもあると。同時に、逆張りという観点で見れば、仕込みのチャンスも訪れるかもしれません。

 ─ 金利がつくことは正常化といっていいわけですよね。

 堀江 ええ。正常化に向かっているということです。ですから、各事業の利益目標も、これまでは金利がほとんどない世界でしたので、その絶対額だけを見ていれば良かったのですが、これからは利回りといいますか、ROA(総資産利益率)などを見て、その中からきちんと金利も払っていかなければなりません。

 そして、インフレになれば価格戦略が大事になります。日本の会社が一番弱いと言われているところですが、ここもしっかり取り組みたいです。ただ、単純に値上げをしたのでは、お客様はついてきていただけません。ですから、我々が提供するサービスのクオリティー(質)を上げていく。そのようなことを一緒にやっていかないといけません。


鉄道やバス、不動産をベースに生活サービスを展開して

 ─ 東急グループの事業構成では、生活サービスが過半を占めます。グループ内には鉄道やバスをはじめ、様々な事業があるわけですが、この生活サービスの今後の位置づけとは。

 堀江 売り上げでは確かに生活サービス、つまりは百貨店やストアなどの構成が大きいのですが、私はむしろ利益ベースで見ています。こう見ると、相対的に売上高利益率の低い生活サービスの割合は、ぐっと下がります。鉄道やバス、それから不動産というものがベースにあって、その上に生活サービスが乗っかり、ホテルやリゾートにつながります。

 ただ、ベースの上にある生活サービスという領域で東急沿線のお客様に様々な形で接点を持ち、魅力的なサービスを提供できることも事実です。ですから、我々にとって生活サービスの分野というのは、やはり不可欠な分野だと思います。

 極端な言い方をすると、鉄道と不動産だけをやって生活サービスに必要な機能はリーシング(賃貸)で生活サービスを手掛ける事業者を連れてくるやり方もある。しかしながら、我々はそのようには考えません。

 その理由の1つは、その生活サービス事業自身で稼ぐチャンスがあるということです。それからもう1つは、需要が少ない中でも、誰かが最初にやらないと他がついてこない。沿線のお客様に不便をかけてしまいます。

 ですから、それをやることが我々の仕事ということも多々ある。その昔、多摩田園都市の開発初期段階では、居住者が少なくても駅前に東急ストアを出店させました。

 ─ 今回のコロナ禍を通じてリモートワークが普及するなど、生き方や働き方もだいぶ変わってきました。しかし、コロナが収束し始めると、再びオフィス出勤が復活しています。

 堀江 確かにコロナ禍で渋谷のオフィスの空室率は真っ先に上がりました。これは渋谷に拠点を置く企業がIT系を含めてリモートワークができる業種の方が多かったからです。ですから、一斉に出社率も下がり、某テナントでは5%ほどになりました。極端な外資系企業はゼロでしたからね。

 ただ、大企業ではオフィスのフロア自体を減らす動きはありませんでした。コロナ終息後に出社率が上がるということも見越していたからです。どちらかというと、スタートアップ企業などは収入とのバランスもあり、解約を選択するケースもありました。

 しかしながら、先ほど申し上げた通り、再び出社を奨励する企業が出てきましたので、コロナ禍が落ち着いた後に、真っ先に空室率が下がったのも渋谷になります。今は多くの企業で出社を積極的に推奨するケースが増えていますね。

 特にクリエイティビティが求められるICT・DX等の業界では、リアルのミーティングの中でディスカッションをすることによって新しい発見をしていく、あるいは、異業種の人とも交流する、そういったことが大事だと思っておられるようです。

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