2024-03-21

森ビル社長・辻 慎吾の「街をつくり、街を育む!」

辻慎吾・森ビル社長




〝失われた30年〟の中で

 20年、30年の中長期視点で開発を重ねてきた、〝失われた30年〟をどう総括するか。

「(デフレ下で)モノの値段がずっと上がらない時が続きましたからね。家賃もずっと横ばいだし、2003年の六本木ヒルズをオープンした時の日経平均株価は7000円台ですよ。8000円を一瞬切っている。オープンの2日前の出来事で、それが一番の安値だった。今の株価は、この20年間で4倍以上になっているわけです。(20年前は)ものすごい円高で、海外からやって来るお客様からすると、ホテルなどは毎月値上げしているようなものでしたからね。あの時のものすごい円高はすごく厳しい環境でしたね」

 円高・株安時でのヒルズ建設である。

「その前に、リーマン・ショックがありましたから、本当に厳しかった。テナントさんも皆コスト削減に一斉に走りましたからね。だから安い家賃の所に引っ越すところが多かった。そういう意味ではなかなか厳しい時でしたが、アベノミクスで経済が変わりました」

 日本銀行の超金融緩和政策も加わって、一時期、1ドル70円台まで円高が進んだ為替も、1ドル110円~120円と円安方向に転換。

 アベノミクス否定論も世の中にはあるが、「それで経済が上向きになってきたという側面はあると思いますね」と辻氏。

 金融緩和、財政出動で民間経済の投資などを引き出すインフラ(基盤)を整えるというアベノミクス。今、問われるのは民間の役割であり、出番である。


大事なのは街を育むこと

「街が誕生する瞬間というのは、本当に嬉しいですね。誕生までには長い時間がかかっているし、何百人という地権者の人と一緒にやるわけですからね。その人たちに対しても責任があるし、これだけの大きな街づくりというのは、まさに東京の磁力を生み出します。磁力を生む力の1つになってほしいと、世界の都市間競争に勝つための大きな力になってほしいという思いがありますから」

 辻氏は、「自分たちがやってきた事を世の中に出すことができるのは、ものすごく嬉しい。街づくりをしている人間にとっては、たまらない瞬間です」という気持ちを述べながら、「そこからさらに街を育てていくという行為が始まります」と語る。

 街を育む─。「六本木ヒルズは昨年で丸20年経ちました。20年の歩みの中で、22年のクリスマスイヴは1日の来街者が過去最高となりました。これはなかなか難しいことなんです」

 六本木ヒルズ内に出店する商業施設、ホテル、レストランなど、ヒルズを訪れた人の数が、オープンから20年経った22年のクリスマスイヴに日が史上最高を記録したのである。

 六本木ヒルズは進化し続けていると辻氏が続ける。

「売上はまだ伸びていく可能性があるんです。なぜかというと、お客様をちゃんと掴んでいけば、可能性はあります。でも、来場者というのは、六本木ヒルズができた年のクリスマスの日、初めて青白のLEDを点けた時がもう入れない位、人がいたんです。それがこれまでの最高の人出でした」

 辻氏はこう振り返りながら、「街の鮮度というのは、オープンの時が一番高い。だって、誰も見たことがないんですからね。だから、鮮度は落ちてくる。でも、絆(きずな)は強くなっていく。鮮度は上げようとするんだけど、最初のオープン時を超えるというのはなかなか難しいことなんです」と語る。

〝鮮度〟と〝人出〟の関係をヒモ解きながら、22年のクリスマスイヴの例を引き合いに、『街を育む』ことの大切さを説く。


東京を世界一の都市に!

 世界の都市間競争を勝ち抜く─。

「東京が世界一の都市になりたい。また、その競争にどう勝っていくのかと。そういう都市をつくらなければいけないというのが、森ビルの強い思想だったわけです。その思想をちゃんと継続しているということです」

 森稔氏は30年位前から、都市間競争の時代と言い続けてきた。30年前、それに耳を傾ける人は少なかった。最近は、国や東京都など行政のトップが、都市間競争での東京の地位向上に触れる場面が多くなり始めた。

 森記念財団都市戦略研究所(所長、竹中平蔵・慶應義塾大学名誉教授)が経済、研究・開発、文化・交流、居住、環境、交通・アクセスの6つの分野・70の指標、さらに金融分野・14の指標を加えて分析した世界の都市総合ランキング。

 それによると、2023年のランキング1位はロンドン、2位ニューヨークに次いで、東京は3位。4位はパリ、5位にシンガポールが続く。以下、6位アムステルダム、7位ソウル、8位ドバイ、9位メルボルン、10位ベルリンという順位。

「わたしたちは、地方の再開発のお手伝いも前向きにしているんですが、やはり東京をどうするかというのは、森ビルにとって一番のポイントだと」

 辻氏は、東京の再開発は日本再生に大きく貢献するという認識を示しつつ、「軸を絶対にぶれさせずに経営に当たりたい」と語る。

『街をつくり、街を育む』日々がこれからも続く。

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